井原西鶴
こうして仮名草子の第1作となったのが『好色一代男』である。色好みに耽る世之介が主人公になっているのだが、それはそのころの世間が知っている仮名草子ではなかった。俳諧文脈があって、そこに和歌文脈が交じり、さらに漢詩・謡曲のフレーズやかかりが組み込んである。 それだけなら雅俗の「雅」だけであるが、そこへもってきてニュース記事風、書簡っぽさ、談話ふう、インタビュー収録調、それに猥談まがいなどの「俗」がたっぷり入っている。ジャーナリスティックで、かつ創意に富んでいた。「猥」とは「淫する」ということだ。 欲望によって動く町人、封建道徳や面子によって動く武家など様々なタイプの人間を描いた