昔話
六人の魔女よって語られた話。ムディート曰く、いろいろと辻褄が合わないバリエーションが存在するらしい。以下に概要を記す。 かつて裕福で心優しい地主がいた。彼は国中に広い土地を持っていたが、土地にはさまざまな災厄が重なっていた。地主には九人の息子と末の娘がおり、娘は彼女に長年仕える乳母と親しくしていた。ある時期から小作人たちのあいだで不吉な噂が囁き交わされるようになる。月夜の晩になると、怪物チョンチョンに化けた領主の末の娘と黄色い牝犬に変身した乳母が徘徊している。ふたりは魔女で、土地のすべての災厄は彼女たちのせいだという。噂は九人の兄弟たち、そして父親である領主の耳にも入る。兄弟たちは相談の上、乳母殺害を決めるが、そのとき作男が怪物出現の報を知らせる。兄弟たちは怪物を追うも取り逃し、農園に引き返す。そこで兄弟たちは黄色い牝犬を発見し、これを捕縛する。兄弟たちをしたがえた父親は娘の部屋をこじ開けたが、同時に叫び声をあげ、大きなポンチョの袖で他の者の目からさえぎった。 黄色い牝犬は丸太にしばりつけられ、川に流される。娘は父親によって首府の修道院(おそらくはエンカルナシオン修道院)に預けられ、その後、彼女のすがたをみた者はいないという。 ムディートの推測によれば、領主がポンチョの袖でさえぎった秘密とは、娘と近在の若者とのあいだに産まれた庶子の出産であり、娘はそのために修道院に閉じこめられることになった。産まれた赤子は領地の百姓にゆだねられ、アスコイティア一族の血を拡散させていくことになった。