進化倫理学入門
進化倫理学の入門書
2冊ある
An Introduction to Evolutionary Ethics
著者: スコット・ジェイムズ
道徳哲学者
進化倫理学入門 « 名古屋大学出版会
書評 「進化倫理学入門」 - shorebird 進化心理学中心の書評など
https://philpapers.org/rec/JAMAIT-7
『進化倫理学入門』
光文社新書
著者: 内藤 淳
倫理学や法哲学で議論が錯綜している問題に、「人間行動進化学」という角度から光を当てる。
進化倫理学入門 : 「利己的」なのが結局、正しい 内藤 淳(著) - 光文社 | 版元ドットコム
目次
序章 「嘘をついてはいけない」と子どもに教える本当の理由
第1章 人は利益で動くようにできている
第2章 「利己的」な愛
第3章 友情と良心の損得
第4章 「善」は得、「悪」は損
第5章 「私」の利益になる「正しい社会」
終章 「自分のため」の道徳
以下、新書の方の読書メモ
第1章
利己性とは価値中立な性質
利己性と善悪の関係を論じる
cf. 利己主義wint.icon
利己性は生物にとっての必然
要素
資源獲得
生存
繁殖
利益とは進化学で言う(包括)適応度のこと
#包括適応度
cf. 利己的な遺伝子wint.icon
脳の進化も当然利益のため(適応)
資源は多様
例: 地位、評判、名誉
cf. prestige, EvoPsywint.icon
理性が固有説
そもそもヒトは理性的に行動しない。感情が先。理性は補助。
cf. デビッド・ヒューム
cf. アントニオ・ダマシオ
ソマティック・マーカー仮説
cf. 二重過程理論wint.icon
快・不快が行動を生む
理性で推論や分析や計算はする
快を志向し不快を回避する原則
要は快楽主義wint.icon
快・不快は利益を基準に生じる
進化によって形作られた
基本的には利益をもたらす
感情反応パターン
つまり利己的な行動
つまり本来の機能は利益を目的にしているwint.icon
例外
これまでの環境や学習によっては、不利益をもたらす感情が生じることもあり得る。
→ 不利益行動の発生
まとめ
利他行動の4種別
(以下第2章)
1. 血縁者
cf. 血縁淘汰の理論
適応
e.g. 動物にも見られる
2. 配偶者
繁殖資源が目的
獲得、維持
性的な結びつき
ヒトは特に子育て期間が長い
配偶関係維持にもコストを割く
(以下第3章)
3. 友人、仲間
互恵的利他関係
血縁でない他人とも協力できる
好悪の感情
不利益の回避
ここでも無意識ながらに利得が計算されてる
4. 見知らぬ他人
返礼は期待できないが…?
他にも共同体へも
cf. 間接互恵の理論
by アレグザンダー
e.g. 評判の利益
広まる
cf. 評価経済社会wint.icon
合理的な悪人は善人の振る舞いが最適wint.icon
互恵関係の前提
悪評は不利益
利他行動は、その性質のある種の広告
先行投資
無限定な行動を示す必要がある
さらには無条件に
第2章
利己的な愛
利他性も利己性から説明できる
→ 利他行動の4種別
愛情の進化
利己的な実利のため
主観的な理解と一致するとは限らない
むしろ一致しない方が適応的な可能性もある。つまり自分を騙す。wint.icon
感情は利益行動誘発装置。愛情⊂感情も然り。
cf. 道徳感情、情緒主義 wint.icon
第3章
4種別の続き
互恵的利他行動
要件
仲間の記憶力
集団生活、社会生活
返礼がないとやめる
好悪
好意 → 関係促進
嫌悪 → 関係抑制
強化の相互作用
好意⇔利他行為
嫌悪⇔不利益
→ 互恵関係の選別
→ 友情感情によって長期化のために維持・強化する
関係性へのバッファとして機能するwint.icon
同情
返礼性を前提とした有望な投資先への投資へのインセンティブ
cf. 強者の方が同情を集める傾向
本人の欠点に依る不遇には同情が発生しない
→ いわゆる「自業自得」
cf. 自己責任論
罪悪感
利他行動の失敗に対するリカバリーへのインセンティブをもたらす
関係回復など
憎しみ、復讐心 = 報復心
不利益への反撃に対するインセンティブ
他人への利他行動
→広告効果
評判につながらないなら?
注意:選択的行動をすることになる
→ 認識しきれない
露呈すると、むしろ悪い広告効果になる
→ 原則的な行動にするべき
cf. カントの定言命法wint.icon
都度計算するのは不可能なため
無意識化
思いやり→利他行動による快
利己性や計算を意識せずに済む
利他性があると思い込める
より自然に行動できる
cf. 敵を欺くにはまず味方からwint.icon
良心 → 評判の利益
e.g. 寓話による教育効果
善行には利益、悪行には損を
e.g. 情けは人の為ならず
メモ
spectrum: 血縁淘汰、配偶関係、互恵関係、間接互恵
第4章
道徳は行為規範
主に社会道徳
セオリー集
利他行動をするのに道徳規範は不要では?
→ 対立利益があると別
これは他でも同じ話
真の対立: 短期的利益 vs 長期的利益
短期に流れがち
→ 強化が必要
cf. 規範という装置による自己コントロールの支援wint.icon
規範は、利益獲得のための方法論やセオリー
あるいは行動指針wint.icon
誤謬
個別事例では原則を否定できない
つまり原則論
規範は相互利益が前提
利益にならないなら命じない
つまり利益の一致
イディオムは利害の一致かwint.icon
個人規範 → 社会的規範
浮気
ここでも自己利益の対立
長期利益: 配偶関係の安定
悪行
→ 互恵に反する → 不利益
→ 報復 → 不利益
→ 悪評 → 不利益
嘘
反-互恵的 ← 悪行
互恵的 ← 善行
殺人
⊂ 悪行
つまり互恵関係を失なう
→ べからず
他の生物とは互恵関係にならないのでセーフ
人を特別視する合理的理由がある
(対等な)エージェントではない?wint.icon
悪事の隠蔽コスト
コスパが悪いだろう
疑われるリスクすら不利益につながる
道徳のベースは(結局は)利害損得
もはや曖昧さはない
道徳では足りないケース
補償しきれない
被害が拡大する
→ 予防的措置が必要
刑罰
悪事の損失を明示的に拡大させて抑止する
法に拠るので明示的
法は道徳を補完する
裁判所が執行を強制する
e.g. 強制履行
不道徳な契約も予防する
道徳教育
親に教育のモチベーションがある
道徳教育 → 適応度向上 → 子供の利益 → 自分の利益
cf. 道徳生得説
それでも教育に意味はある
第5章
問題
功利主義に似た設定wint.icon
応用問題
「社会それ自体の善し悪しを利益の概念で論じられるか?」
cf. 正義論
法哲学の分野
古代ギリシアより
主に社会の基本構造とその条件を論じる
条件の候補
価値観:自由、平等
→ これらを重視する根拠は?
合意主義
相互に尊重し、調停するという発想
→ 妥協不可能な価値観はどうする?
cf. 不寛容への不寛容wint.icon
言うならば寛容が強制される
功利主義
→ 少数の犠牲を許容するのか?
cf. トロッコ問題wint.icon
個人への視点が必要だろう
本書の提案
前提: 個々人の利益
仮定:
互恵(当然、利己性も)がある
長期的な利益を満たす
利益獲得機会の配分
cf. 機会平等wint.icon
anti. 独占は?
→ これも短期利益にすぎない
配分なしで偏るのも不利益が出る
ヒトの社会性
社会を作ること = 集団生活すること
普遍的な性質
cf. 社会的動物wint.icon
メリット
cf. 捕食者回避
ここでは特に他のヒト集団
cf. R. アレグザンダーの力の均衡仮説
→ 対抗のために集団規模拡大
つまり、集団的闘争での有利wint.icon
現実には、"力の不均衡"
e.g. 格差、搾取
でも反乱は起きる
→ 支配者階層の長期的な不利益
⇆ 事前に配分する
つまり、事前の配分があるのが正しい社会
配分の実施、様態
e.g. 人治、身分、…
対象:職業、婚姻、…
奴隷制は反-配分なので、不正。
人権
配分原理
e.g. 権利保証
自由権 → 形式的名目的保証
社会権 → 実質的保証、是正
cf. 違憲ならば無効になる
cf. 圧政 → 長期的不利益
例によって
→ 正しい配分体制
社会的正義も利害損得に拠る
終章
ふりかえり
道徳の基礎付け
メタ倫理学
主観説 vs 客観説
進化倫理学
客観説
特にメタ倫理学的自然主義
cf. メタ倫理学、自然主義
ここでも自然主義wint.icon
table:matching
利益 不利益
善 悪
正 不正
正義 悪徳
生(セイ)の指針
基本技
人間の本性への信頼wint.icon
タネ本、参考文献、著者
Richard D. Alexander
Richard D. Alexander - Wikipedia
Michael Ruse
マイケル・ルース - Wikipedia