1966年10月 チュードアが「9 Evenings」にて《Bandoneon !》を初の自作として発表する。
日付:1966年10月14日+18日
小咄:
1950年代後半よりピアノにエレクトロニクスを入れはじめたチュードアは、マイクとスピーカーと増幅回路によって生じるフィードバックの持続音にとりつかれる。打鍵後ただちに減衰していくピアノ音とは反対にずっと鳴り続ける音は、むしろチュードアが若いころに慣れ親しんでいたオルガンの世界を呼び覚ます。だからちょうど同じころ、チュードアがバンドネオンというドイツ生まれでアルゼンチン育ちの楽器に惹かれていったことも不思議ではない。オルガンを持たない教会用に、簡単に持ち運びできるオルガンもどきとして19世紀に発明されたバンドネオンは、アコーディオンによく似た楽器であり、蛇腹を押し引きすることで作り出される風を、両手の指を駆使して開け閉めされるフリーリードに送ることで、左右両側から別の音を発することができるという珍しい特性を持つ。アルゼンチン・タンゴで中心的な役割を担うようになったこの楽器を、タンゴの愛好者でもあったチュードアは独学で習得し、周りの作曲家たちに曲を書いてくれるよう頼む。その結果、意外なことにバンドネオンの構造が電子音楽と相性が良いことが判明する。楽器の両側にマイクを置くと、蛇腹の押し引きによって距離が絶えず変化し、複雑な信号が生み出される。1966年に開催された、実験的なパフォーマンスとエンジニアリングを組み合わせたフェスティヴァル「9 Evenings: Theater and Engineering(九つの夕べ:シアターとエンジニアリング)」において、チュードアはバンドネオンを、会場に張り巡らされたスピーカーや照明をスイッチングしたり、映像に変換したり、音を変調させるための制御信号を作り出したりする総合的なインターフェースとして用いて、元武器倉庫だった巨大な空間を轟音で演奏する。この《Bandoneon !(バンドネオン階乗)》が、チュードアが作曲家としてクレジットされたはじめての作品となる。
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