両利きの経営
成熟事業の成功要因は 漸進 型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの寛容性
深化とはこれまで以上にうまく事業を行うことだ。成功している企業は、時間とともに顧客理解を深め、より効率的に顧客ニーズを満たせるようになる。それを反映させて、戦略を進化させ、組織能力と公式な構造と文化との間の調整を組織全体で行う。これから見ていくように、組織的な調整がぴったりと合っているほど、その企業が成功する確率は高まる
マネジメントは確実に列車を定時運行させるのに対し、リーダーシップは適切な目的地に列車を確実に向かわせる。マネジメントは実践を、リーダーシップは戦略と変革を扱うのだ。長い時間をかけて組織を成功へと導くためにその両方が必要 達成しようとすることが、当事者に明確になっているか。当事者にやる気があるか。 必要なときに適切な情報が得られるように、組織が構成されているか。 適切な項目を評価し、報酬を与えているか。 適切なモニタリングとコントロールシステムが整備されているか。 各自の目標達成に向けて、とるべき行動が共有されているか(つまり、KSFを支える文化になっているか)。これらの期待値は幅広く共有され、しっかりと維持されているか
七九ドルが重要なのではない。ことの本質は人々の心理を変えることにあり、よそでは買い物をしなくなるだろう」 アマゾン・プライムは、会員としての恩恵を最大限享受したいという顧客の衝動を解き放ち、アマゾン依存症へと変えた。アマゾン・プライムによって、同サイトでの購入額が平均して二倍になった。
ベゾスは、常に本業以外でリスクをとれるよう支援してきている。独自の商品検索エンジン(当初は失敗に終わり、その後、売却した) を開発するために、カリフォルニア州パロアルトに別組織(A9) をつくった(第一四のイノベーション)。また、広告サービス(クリックリバー) を立ち上げ(第一五のイノベーション)、困難な問題を解決するために人工知能やクラウドソーシングの活用を探求する研究所(mTurk)(第一六のイノベーション) に資金を投じている。カリフォルニア州クパチーノにあるラボ126は、アマゾンの顧客向け消費財の開発拠点だ(第一七のイノベーション)。 このグループはキンドルを開発し、二〇〇六年にはアマゾン・インスタント・ビデオを導入した(第一八のイノベーション)。アマゾン・プライム会員は無料でその一部を利用することができる。一見すると、これらは全く異なる取組みだが、アマゾンがオンライン小売業向けの技術プラットフォームになるために必要な組織能力を養うという共通の目標。アマゾンの意思決定は、顧客満足へのこだわり、低価格、長期展望を重視する一連の 基本的 価値観 によって推進されてきた。「長期志向になれば、顧客の利益と株主利益は一致する。短期で見れば、必ずしもそうではないのだ。(中略) 発明には長期のアプローチが欠かせない。というのは、その途中で多くの失敗を経るからだ。(中略) 常に二~三年で重要な財務結果を見ていく必要があったとすれば、私たちが行ってきた最も有意義な活動の一部は決して始められなかっただろう。たとえば、キンドル、アマゾン・ウェブ・サービス、アマゾン・プライムなどがそうだ」とベゾスは言う
企業はスキルを重視する。新しい分野に事業を広げようと考える際に、最初に考えるのは『なぜこれをやるべきなのか。自分たちにはその分野のスキルがない』点だ。こうなると、企業の寿命は有限になる。というのは、世の中は変わっていくため、かつては最先端スキルだったとしても、すぐに顧客には不要なものとなるからだ。それよりも『自社の顧客には何が必要か』から始まる戦略のほうがはるかに安定している。この問いかけをした後で、自社のスキルとのギャップを調べていく
組織の観点でいうと、深化がマネジメントの問題だとすれば、探索は基本的にリーダーシップの問題「失敗する組織はたいてい過度に管理され、あまりリーダーシップが発揮されていない」 第一に、カーリーが戦略的意図(「新聞ではなく、ネットワークになる」) をはっきりと打ち出し、探索ユニットと深化ユニットがいずれも同じ組織の一員として協力し合うべき、正当な理由を示した。 第二に、組織全体に適用される共通の価値観(公正さ、正確さ、信頼性) という形で、共通のアイデンティティを与えている。 第三に、最終的に配下の上級幹部チームが足並みを揃え、新戦略に尽力するよう徹底させ、熱心でない人は参加意識の高い人と交代させた。 第四に、探索と深化の両部門を構造的に分離させつつ、重要な接点のマネジメント(日次の編集会議) と運命共同体としての報酬制度を通じて、しっかりと統合が図られていた ① 探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。 ② 新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護すること。 ③ ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。これには、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは、組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む。 ② どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。 ③ 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。 ④「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。 ⑤ 探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間をかける
ある企業では、部屋中に市場データ、競合他社の分析、ベンチマーキング情報というお決まりの戦略メニューが書かれた紙を張り出し、幹部チームに「ギャラリー・ウォーク」を通じてこれらのデータの向上に努めるように促している
深化ユニットでは重視されるのは漸進型イノベーションと絶え間ない改善だが、探索ユニットでは実験と行動を通じた学習である。探索ユニットはスピンアウトせずに、深化ユニットの中核となる資産と組織能力を探索ユニット内で活用する。内部的に矛盾をはらんだ探索ユニットと深化ユニットを共存させるには、包括的で感情に訴える抱負、基本的価値観、幹部チームの強い結束力が必要