世界標準の経営理論
産業の収益性は、需要の伸びだけでは説明できないのだ。むしろ大事なのは、「その産業がそもそも儲かる構造になっているかどうか」なのである
完全競争(perfect competition)という概念である。完全競争はおおまかに以下の3つの条件を満たす市場(=産業)の状態と考えていただきたい。 条件1——市場に無数の小さな企業がいて、どの企業も市場価格に影響を与えられない。 条件2——その市場に他企業が新しく参入する際の障壁(コスト)がない。その市場から撤退する障壁もない。 条件3——企業の提供する製品・サービスが、同業他社と同質である。すなわち、差別化がされていない。完全競争の重要な帰結は、「企業の超過利潤がゼロになる」ということだ。「超過利潤」というのは、「企業が何とか事業を続けていける『必要ギリギリの儲け』を上回る部分」のことである。すなわち、超過利潤がゼロとは「企業が何とかギリギリやっていけるだけの利益しか上げられていない 企業にとって重要なのは、自社の競争環境をなるべく完全競争から引き離し、独占に近づけるための手を打つ SCPのエッセンスはすべて「完全競争と完全独占のスペクトラム」に集約されている。自社の周りの競争環境を少しでも独占に近づけた企業が安定して高い超過利潤をあげられる
ウォルマートのコスト主導戦略は、「地方中心の出店」「大規模な流通システム」といった仕組みと一貫性があるから成功してきた。逆に言えば、「このぐらい一貫した条件が揃わない限り、コスト主導戦略は安易に追求してはならない」ともいえる
企業リソースに価値があり(valuable)、稀少な(rare)時、その企業は競争優位を実現する。 命題2——さらにそのリソースが、模倣困難(inimitable)で、代替が難しい(non- substitutable)時、その企業は持続的な競争優位を実現する。
市場でのビジネス取引において、①不測事態の予測困難性、②取引の複雑性、③資産特殊性、の3条件が高い時は、市場での『取引コスト』がかかりすぎるので、むしろ取引相手のビジネスを自社内に取り込んでコントロールする。企業の存在とは、市場における取引コストが高い部分を内部に取り込んだもの。
企業にとって重要なのは、常にそのアスピレーション(目線)を高く保てるか」にある。業績期待が高まっても、それに合わせてさらにアスピレーションを上げなかったら、満足度が高いままになり、サーチをしなくなる。直感的に言えば、「うまくいっている時こそ、さらに目線を高くせよ」アスピレーションとは「自分のパフォーマンスが他者よりも悪い」時に上がる。逆に言えば、周囲が自分よりも大したことをやっていなければ、目線は上がらない
イノベーション研究において核心的に重要な“exploration and exploitation”に焦点を当てる。本書では explorationを「知の探索」、exploitationを「知の深化」と呼ぶ サーチとは、前章で解説したBTF理論の重要概念で、一言で言えば、「認知の範囲の外に出ること」である。カーネギー学派の前提が「限定された合理性」(bounded rationality)にあることは、前章で強調した。人や組織は認知に限界があるから、本当はこの世に自社にとって有用な選択肢が多くあるにもかかわらず、その大部分を認識できない。したがって「サーチ」をすることで、認知の範囲を広げる必要。知の探索は「サーチ」「変化」「リスク・テイキング」「実験」「遊び」「柔軟性」「発見」「イノベーション」といった言葉でとらえられるものを内包する。知の深化は「精練」「選択」「生産」「効率」「選択」「導入」「実行」といった言葉でとらえられる 人・組織はどうしても本質的に、「いま認知できている目の前の知同士だけ」を組み合わせる傾向があるのだ。経営学では、myopia(近視)という。 したがって目の前の知だけをひたすら組み合わせるから、ある程度の時間が経つと組み合わせが尽きてしまい、新しい知が生まれなくなる
インターネット・ニュース配信事業を既存の(紙媒体の)新聞事業から完全に切り離し、人材も、事業方針も、ビルのフロアまでも分ける。新しい部署に必要な機能(例えば開発・生産・営業)をすべて持たせて、独立性を保たせること」「②一方、トップレベル(例えば担当役員レベル)では、その新規部署が既存の部署から孤立しないように、両者が互いに知見や資源を活用し合えるよう交流を促すこと」の重要
一人の人間が多様な、幅広い知見や経験を持っている」のなら、その人の中で離れた知と知の組み合わせが進み、新しい知が創造できるのだ。これを、経営学ではイントラパーソナル・ダイバーシティ(intrapersonal diversity)と呼ぶ。「個人内多様性」という意味だ。 社内でビリヤードをして入れば、そこで関係ない部署の人と顔を合わせて交流できるからだ。ビリヤード場やカフェテリアが、社内のTMSを高める
ブレストの役割はアイデアを出すことよりも、TMSを高めることにある」と理解すれば、大事なのは、むしろ「ブレストが終わった後」になるはず
アブダクションに必要なのは「目的意識を持っての、徹底的な事実の察知」である。最近の著書『直感の経営』で野中は、例えば富士フイルムを化学メーカーに大転換させた古森重隆氏などを引き合いに出しながら、「優れた経営者ほど現場の事実を大事にし、事実をありのままに徹底的に見よう 京セラのコンパというのは、本社の12階にある百畳敷きの和室でやるんです。畳の部屋には理由があって、椅子だと自由に移動できず、身体の共振が起こらない 人格をかけた知の格闘をすることで、やがて互いが「我、汝」の関係になっていき、現象学の主張するように、主体と客体が一体化していくのである。結果、共感が発生し、共同化が進んでいく
創業者CEOのジェフ・ベゾスからは「もっとカニバリゼーションを起こせ! アマゾンの既存事業を潰せ」といった主旨のメッセージ ゴール設定理論の貢献の一つは、「モチベーションは、具体的でチャレンジングな目標設定と恒常的なフィードバックで、人為的に高められる」点を示した
バイアスを減らそうとすればヴァライアンスが増え、逆にバイアスの高さを許容すればヴァライアンスを減らすことができる
ビジネス上の人と人のつながりは、大きく3つのレベルに分けられる。それはアームス・レングスなつながり(armʼs length tie)、埋め込まれたつながり(embedded tie)、ヒエラルキー上のつながり(hierarchy)
関係性の埋め込み( relational embeddedness):人は一度つながった相手と繰り返しつながり、その関係性が安定化していく傾向がある。 人は一度相手とつながれば、その次は前よりも相手のことを知っているので、よりヒューリスティックな意思決定に頼る。埋め込まれたつながりでは、人は意思決定のスピードが早くなる。 埋め込まれたつながりにある両者は互いをよく知っているので、ヒューリスティックに頼って意思決定のスピードが速くなる。結果、双方間で流れる情報のスピードも速くなる 企業の存在とは「市場で発生する取引費用が高い部分を取り込む」ことだった。企業の境界が、明確だったのである。 しかしこれからの時代、企業の存在は「企業vs.市場」のようなシンプルなものではなくなっていくのではないだろうか
バウンダリー・スパナーとは、企業と企業、組織と組織、部門と部門、地域と地域などの「境界を超える」人
ダイバーシティは「知と知の新しい組み合わせ」を引き起こし、イノベーションの源泉となりうる
ボード・インターロック(board interlock)である。これは、依存度が高い相手企業の役員を自社の社外取締役等に迎え入れることを指す。
新聞が市民権(=レジティマシー)を獲得し始める。それに合わせて、多くの起業家が新聞業界に参入するようになった。例えばサンフランシスコ周辺地域では、1820年代に刊行されていた新聞の数はほぼ皆無で、1860年頃でもせいぜい50程度だった。それがピーク時の1916年には395まで急増している(
レジティマシーLegitimacy獲得に必要なのは、再生産可能性(reproducibility)と説明責任・透明性(accountability)である」と主張した。いくら優れたサービスを持つ企業でも、それが一度だけしか提供できないのでは意味がない。様々な顧客に安定して同質の製品・サービスが提供できるからこそ(再生産可能性が高いからこそ)、社会に受ける 例えば米デュポンには、「100年委員会」とでも呼ぶべきものがある。経営陣が各技術分野、人口動態、地政学などの専門家を呼んで、これから100年先の将来がどうなるかを予見する 誤解を恐れず大胆に言えば、3年単位の中期経営計画に頼る日本企業の多くは、この「メガトレンドに基づき、様々な業界の生態系変化を見越す習慣」が決定的に足りていないのではないだろうか
アントレプレナーの核心は「会社を立ち上げること」にあるのではない。それは、「新結合を通じて創造的破壊を引き起こす人」 ジェイ・バーニーらが2010年にAMAで発表した論文だ 注14。同論文でバーニーは、前者を「事業機会の発見型」(discovery opportunity)、後者を「事業機会の創造型」(creation 創造型は、「事業機会とは起業家が行動を起こすことで、起業家によってつくられ、後になって認知される」と考える。例えば、まずは起業家がAIを使って様々なサービスを試行錯誤し、色々な潜在顧客に試しているうちに、収益化の仕掛けが見えてくる、といったイメージだ。 センスメイキング理論は、「人とその対象(=事業機会)は決して切り離せず、その人が行動して環境に働きかける(イナクトメント)することにより、やがて事業機会が浮かび上がり、結果として後からその事象をセンスメイク(納得する)
革新的な起業家の思考パターンとして、「クエスチョニング」(questioning:現状に常に疑問を投げかける思考パターン)、「オブザービング」(observing:興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する思考パターン)、「エクスペリメンティング」(experi-menting:それらの疑問・観察から、仮説を立てて実験する思考パターン)、「アイデア・ネットワーキング(idea networking:他者の知恵を活用する思考パターン)の4つ
「複雑系研究者は、細かいメカニズム、すなわち『whyに答えること』に関心がないのです」