B.参考04:自学と他学(相互学習)
大学でも社会でも,「学習」は一生の宝だし,一生続くものだ.このノートでは学習のスタイルについての考察を示そうと思う.
◆自学と他学
学習スタイルには大まかに分けて,一人で学ぶ「自学」と,人との関係の中で学ぶ「他学」(ここではそう呼ぶ)がある.教師について教わるにしても,この2つのスタイルがある.つまり,教わったことを復習したりさらに掘り下げる際に一人でやるのか,他人と関わりながらやるのか.
自分の時間や自分の理解度を大切にする自学,他人との討論や教え合いで向上する他学.どちらも重要なスタイルだと言える.
ただ,日本人は他学のウェイトが低すぎるという指摘がある.
いわく,「(世界に比べて)日本人は自発的に学ぶ習慣がない」「他者に関心がなく,他者を信頼せず,それゆえに課題意識が高まらない」等の意見がある.この記事で重要だと私(藤井)が感じたのは,学びは他者との関わりの中でこそ多くの実りがあるということだ.
他者との学びのキーワードは「真似し合い」「教え合い」「創り合い」「高め合い」 .
※詳しくは上記の記事参照
これらのどれもが一人だけではできない事だ.無論,本を読むことは著者との対話だとの主張もあるだろう.一人で黙々と本を読み,教科書の演習問題を解くことで能力をアップさせる.それはそれで素晴らしい.しかし,書籍はあくまでも特定の著者のある一定の知識が集約されているにすぎない.それを解いて自分に理解しやすく解釈したり,周辺知識を探ったり,別のアプローチを提示することは,全て読む側の仕事である.
その仕事こそ,他者と関わりながら学んでいく方が遥かに身につく.これには私(藤井)も強く同意する.
互いに自分の持っている見識を披露し,突き合わせていくことで,より広い視野を獲得することができる.
大学は開かれた世界であり,他者との関わりによって学びを加速させることが可能な場所だ.ぜひ,より多く,広く,他者と関わり,創発的な学びを花開かせてほしい.
◆自学のスタイルにも工夫を
諸君は大学受験などを通して,これまでに自分なりの学習スタイルを身に着けていることと思う.大学ではそれを加速させるべく,いろいろなツールを使いこなしてほしい.
昨今では独学できるサイトが数多く存在する.自分にあうサイト,自分の学びたい専門分野に詳しいサイトを探すのは手間がかかるが,面倒がらずによいサイトを見つけて大いに利用したい.
以下に,自学のヒントになりそうなツールやサイトを紹介する.
語学や国語辞典だけでなく,百科事典も検索できる.
レポートや論文執筆の際には,自分が使っている言葉・単語が本当に自分の意図を示すものなのか,使い方を間違えていないか,確かめることは大切な作業だ.
◎電子辞書用:
ネット上の辞書サイトでなく,単独の電子辞書もぜひ活用したい.電子辞書は,
オフラインで使える.電池の持ちが良い
選ばれた複数の辞書を横断的に検索できる
余計な記事がヒットしない
広告が出ない
などの利点がある.特に文章執筆時にはいちいちスマホを使わずにすむのはよい(藤井は愛用).
◎紙の辞書:
◎専門的知識のサイト:
大学や高専の先生が書いた丁寧な記事や,専門的なメーカーが製品の基礎知識として理論を紹介する記事が,学習に役立つ.
※例えば電気回路系の知識は電気素子の製造メーカーや計測機器メーカーがかなり力を入れて説明している.
※理工系の専門知識に関しては,一般マスコミの記事は大雑把で誤解が多いので注意
ただ,専門的なサイトでも,1つの記事に書かれたことを鵜呑みにするのではなく,
1. まずしっかりした書籍を読む
2. その中でわかりにくかったり疑問に思ったことをそういうサイトで確かめる
というスタイルでの学習を推奨する.
◎コグニカル:
https://gyazo.com/1bfdba1ce0b9f342c4f5c006aed74088
このサイトは数学,物理学,工学を中心にして,知識を多層的に構成してある.
あるキーワードを検索するとそれを説明する記事が示される.特徴的なのは「この記事が理解できない場合は」というリンクがあり,そのワードを理解する前提知識としてなにが必要か,関連ワードはなにかを提示してくれる.
該当の記事で理解できなければ,前提知識を掘り下げて学んでいけば,「最初にこれをわかっておく → その上で次の知識が理解できる」という,知識の層を把握することができる.
知識の層というのは,初学者には見えにくい.何と何がつながっているのかを把握できないまま,森の中で迷いうことが多い.その階層をたどれるように提示してくれれば,よい学習指標になる.知識を立体的に見通しながら学習を進めたい人にはおすすめのサイト.
※ただし,ひとつの記事内容はシンプルなので,他のサイトを参照しながら進めるのがよいだろう.
これは第4回で学んだことだ.生成系AIを相手に学習を進めるのもよい方法だろう.対話的に理解を進めることにより,単純に自習するよりも学習効率がアップするだろう.( もちろん人による )
A. AIは24時間営業.いつ質問しても嫌な顔(?)ひとつせず,無視することもなく,ちゃんと返事してくれる.
B. AIはディスらないしキレない.変な質問したからといってバカにしたりしない.しつこく同じ質問してもキレることもない.回答が多少機械的だったとしても,すべての質問を受け入れて必ず回答してくれるというのは精神衛生上,非常にありがたい.
C. プロンプトはコミュニケーション.AIとの有益な対話をするには,プロンプティングスキルという「質問する技術」が必要になるが,このスキルは人間に対しても有用である.AIは深い暗黙知や大きな文脈は読めない.だから,順を追って条件を整理しつつ対話を進めないと,求める回答にたどり着けない.これはとりもなおさず,自分の論理を把握し,それを順序よく提示し,理解しやすいように表現する,というコミュニケーショントレーニングである.
※日本人は「文脈依存」で省略的な会話をすることが多い( LINEの会話を想起しよう ).「空気を読め」という暗黙の同調圧力もあり,その「空気」を破ってしまう可能性のある発言を「してはいけない」と感じている人が多い.これは外国人との交渉や共同研究などでは圧倒的に不利である. → 参照:B.参考03:質問をしよう ★あまりオススメしないサイト:
1. 世間一般のマスコミ記事や商品の広告記事:多様な情報を発信としているものの,特に理工系の専門分野については信用できない.あくまでも一般読者向けのために概念を単純化するからである.
※例「ハッカーは悪人」「放射能は悪」「自然由来の原材料は体にやさしい」
2. YouTubeやSNS:正しい内容の記事を見つけるのが大変( よく探せばよい記事はあるが…… ).
3. 「教えてGoo」のようなQ&Aサイト:専門知識についてはあまりおすすめできない.理由は,専門的な質問は回答者が限られ,それを評価する人が少ない.時には回答が中途半端で放置されてしまうことがあるからだ.ヒントくらいにはなるかもしれないが…….
◆他者と一緒に学ぶコツ
上で紹介したように「自学」で学べる範囲は広い.しかし,他者と議論しながら思考を深めることは,自分にはない発見と学びがある.これは独学では決してできないことだ.
他者と関係を作りながら学び,互いに高め合うためには,それ相応のコツ・スキルが必要である.
※もちろんだが,最初から完璧である必要など,どこにもない.むしろお互いに不完全だからこそ大いなる学びが得られるのだ
これについてはここで詳細に述べるより,関連書籍やネット記事を検索することをおすすめする.ここでは上に紹介した林氏の記事から,4つのワード「真似し合い」「教え合い」「創り合い」「高め合い」を大切に,と言うにとどめておく.
上記の4つのワードを推進するために,2つのことを述べておこう.
◎まずは共通認識を持つ◎
上記の「〇〇合い」が効果的に働くには,まずは「相互作用をお互いに大切にする」,という共通認識が必要だ.
「学びの仲間」と一言で言っても様々だ.人のノートやレポートのコピーだけくれればいいとか,答えだけ教えてくれればいい,というのは,この相互作用という点において,( たとえ普段仲が良くても )「学び合いの仲間」ではない.
大学で充実した学修生活を過ごすには,「お互いに教え合い高め合うのだ」という認識をもった仲間を積極的に作ろうとする気持ちが大切だ.それは,いつもの友人と高めあう意識が持てればよいが,ただの友達付き合いとは一線を画する方がよいこともあるだろう.ある意味それが「大学生としての矜持・プライド・アイデンティティ」とも言えるだろう.
◎オープンマインドで進め◎
そのために必要な心構えをひとつだけ紹介するとすればそれは「オープンマインド」だ.
学術的な世界,アカデミックな場は,互いにオープンマインドであることが最大の特徴だ.
最初から心を開くというのはちょっと勇気がいるし,最初は違和感を抱いたり抱かれたることがあるだろうが,そのうちに「それでいいのだ」と思えるようになる.
この「学びの仲間」とは同級生や同じ研究室の人とは限らない.
討論する機会があれば,指導教員はもちろんだが,それ以外の先生とも「仲間」になりうる.
学会活動をしていれば学外の研究者に繋がりができることも多い.
研究室に出入りの業者さんと業界の活況についての話をするのもよい.
今目の前にいる人に「あなたから学びますよ」「よければ教え合いますよ」というハートをもって話をすれば,「学びの仲間」は増えていくに違いない.
以上は精神論ではあるが,心構えとして覚えておくとよいだろう.
以上.
2024/4/29