平松尚樹 イラストレーター|インタビュー
「遊びをせんとや生れけむ -Born to play weren’t we?-」
2003.12.1 月
イラストレーターを目指すきっかけ
高校生の時、父親が取っていた米国雑誌「ナショナル ジオグラフィック」に衝撃を受けました。レイアウト、デザイン、イラストレーションの全てが素晴らしかった。付録の地図がまた素晴らしく、例えば全世界の鯨の分布図が一流のイラストレーターによって描かれていて、日本の図鑑とはレベルが違うんですよ。びっくり仰天です。特に影響をうけたのは、アフリカ象の形を紙で切って、ポスターカラーか何かにつけてぺたっと貼ってはがしただけの簡単なイラスト。アメリカの銀行の企業広告かな? それは、僕が紙版画をやる元になったんです。大学に入って最初に描いたイラストレーションも、黒人の子がコカ・コーラのビンをロープでぶら下げて歩いている紙版画。やりたくてしょうがなかったんですよ。今でもそのときの影響が残っていて、今回展覧会に出品する水平線や地平線が描かれたものは、その人の感じなんです。とにかく僕はイラストレーターになりたかったんですよ。僕は吸収できるものがあるなら大阪の早川良雄先生のところだろうと、弟子入りしたんですよ。早川先生の色彩は比類ないと思います。僕は早川先生の絵を分析して、色をばらして試したことがあるんですよ。同じように自分で出そうと思って。ところが出ないんですよ。そこで色には分量との相性があるって気づいたんですよね。同じ色を使っても美しいときと美しくないときがある。青とか赤とか各分量のバランスがとっても大事なんだとわかったんですよ。そのあと早川先生のところを辞めて伊勢丹の仕事だけをやっている、スタジオ・ユニにディレクターとして入社。地位があがるにつれて、僕は人の上に立つのが向いてないと思って、辞めてフリーになった。人を育てるために敢えて鬼になって厳しくということができないんですよ。それが僕の性格。あくる日にその人とどう向き合おうかと考えはじめると耐えられんのですよ。だから僕は生涯弟子を取らないと決めている。でも今なら厳しく対決できるかもしれません。
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作品集が営業ツール
フリーになってから僕は仕事をくださいって言ったことは一度もないんですよ。ただ、僕の存在を示さないといけないと思って本を自費出版で作ったんです。本は作品集であると共に僕の営業マンなんです。一番初めに描いた『MENS WORLD』で仕事が来るようになって学研さんと繋がりができたんです。 それから10年たって版画ばかりの『ごきげんいかが?』を出しました。はじめの本は自分を売り出したいなと思っていたんですが、2冊目からだんだんゆとりが出てきて、お世話になった皆さんに差し上げようという気持ちで本を作りました。 そして10前に『ABC…XYZ』の3冊目を。その後は、感謝の気持ちを大事にしたくて、ポストカードセットを作って毎年お送りしているんですよ。
AD的発想でイラストレーションを
デザインは好んでやらないけど、イラストレーションを作るとき、元々はAD上がりだから発想がAD的に働くんですよ。 例えば肩車をしたイラストを頼まれていると、ふとここに子犬をつけちゃおうかなって思うんですよ、これはAD的発想ですよ。 レイアウトした時に、デッドスペースがあってこのデザイナーは困りはしないかなと思ってね。 いらなかったらそこの部分は使わなければいいだけだから。今回の展覧会作品の額縁もその発想からかもしれない。 すべて額装まで自分で作りました。でもデザインをやらないのは優れた人を見すぎたからかもしれない、 僕は自由に発想の展開ができないんですよ、デザインは。イラストレーションは自分の中で蓄積したものが多くあるから、 いろんな組み合わせが思い浮かぶけど。だから本の装丁を頼まれた時はもう大変です。ぎこちなくって、 絵はすぐに出来てもデザインに2日もかかったり(笑)。
タッチ・素材へのチャレンジ
僕は紙版画のイラストレーションでほとんどご飯を食べてきたんですよ、ブリキだとか焼き物なんかは、ほとんどお金になりません。今まで、イラストレーターという仕事は無名性が重要だと仕事の作品にはサインを入れてませんでした。だから、個展など考えもしなかったのですが、ここのところ少し違ってきました。ただいろんなことをやると絵の鮮度にどんどん帰ってくるから絵は変わってくるんですよ、この錆のタッチはあまり宣伝してませんが、今回の展覧会で多数展示するので仕事にも影響があるかもしれません。 この展覧会に向けて展示作品の1.5倍位の作品を仕上げました。この歳で初めての個展ですから、ぜひこの展覧会で僕のありのまま、そのままを楽しんでいただければと思います。
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多摩美術大学デザイン科卒業。早川良雄デザイン事務所を経て独立。作品集『MEN'S WORLD』『ごきげんいかが』(文/日暮真三)『ABC……XYZ』。2004年クリエイションギャラリーG8「平松尚樹イラストレーション展」開催。'08年ニューヨークCOOギャラリー「いろはかるたNEW YORK展」。'12年渋谷ルデコ2「平松尚樹inspiration展」。
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