『知的生産の技術』
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目次
まえがき はじめに 学校はおしえすぎる/やりかたはおしえない/技術の不足と研究能力/技術ぎらい/知的生産とは/情報産業の時代/生活の技術として/現代人の実践的素養/物質的条件の変化/個人の知的武装/この本のねがい 1 発見の手帳 ダ=ヴィンチの手帳/わかき「天才」たち/発見の手帳/文章でかく/有効な素材蓄積法/発見をとらえる/手帳の構造/一ページ一項目/索引をつくる 2 ノートからカードへ 直輸入の伝統/天皇のノート/ノートの進化/ノートからカードへ/野帳/野外調査法とカード/現地でカードをつくる/共同研究/京大型カード 3 カードとそのつかいかた カードのおおきさ/紙質と印刷/もってあるく/わすれるためにかく/一枚一項目/分類が目的ではない/歴史の現在化/有限への恐怖/カードへの批判 4 きりぬきと規格化 はじめてのきりぬき/スクラップ・ブック/台紙にはる/仕わけ棚からオープン・ファイルへ/資料を規格化する/先輩のおしえ/むつかしい写真整理/市販品と規格化/規格品ぎらい 5 整理と事務 本居宣長の話/整理と整頓/おき場所の体系化/整理法の模索史/パーキンス先生のこと/垂直式ファイリング/分類項目をどうするか/キャビネット・ファイル/家庭の事務革命/空間の配置をきめる/事務近代化と機械化/秩序としずけさ 6 読 書 よむ技術/よむこととたべること/本ずきのよみべた/ 「よんだ」と「みた」/確認記録と読書カード/読書の履歴書/一気によむ/傍線をひく/読書ノート/本は二どよむ/本は二重によむ/創造的読書/引用について 7 ペンからタイプライターへ 日本語を「かく」/筆墨評論/鉛筆から万年筆へ/かき文字の美学と倫理学/タイプライターのつかいはじめ/手がきをはなれて/ローマ字論の伝統/ことばえらびとわかちがき/文字革命のこころみ/きえた新字論/ローマ字からカナモジへ/カナモジ論の系譜/カナモジ・タイプライター/カナモジへの抵抗/ひらかなだけでかく/ひらかなタイプライター/改良すべき問題点 8 手 紙 情報交換の技術/手紙形式の収れんと放散/形式の崩壊/手紙ぎらい/形式再建のために/あたらしい技法の開発/タイプライターがきの手紙/まちがいなくきれいに/手紙のコピー/住所録は成長する/アドレス・カード 9 日記と記録 自分という他人との文通/魂の記録と経験の記録/自分のための業務報告/バラ紙にかく日記/日記をかんがえなおす/日記と記録のあいだ/記憶せずに記録する/メモをとるしつけ/野帳の日常化/カードにかく日記/個人文書館 10 原 稿 他人のためにかく/訓練の欠如/印刷工事の設計図/出版・印刷関係者の責任/ルールは確立しているか/原稿は原稿用紙にかく/原稿用紙/原稿から印刷へ/わかちがきと原稿/印刷技術をかえる/清書はいらない/かならずコピーする 11 文 章 失文症/行動家の文章ぎらい/才能より訓練/かんがえをまとめる/こざね法/ばらばらの資料をつなぐ/発想の体系的技術/まずわかりやすく/用字・用語の常識/日本語は非論理的か/文章技術の両極/国語教育の問題 おわりに 技術の体系化をめざして/情報時代のあたらしい教育
ノウハウの形成について
わたしは、わかいときから友だち運にめぐまれていたと、自分ではおもっている。学生時代から、たくさんのすぐれた友人たちにかこまれて、先生よりもむしろ、それらの友人たちから、さまざまな知恵を、どっさりまなびとった。研究生活にはいってからも、勉強のしかた、研究のすすめかた、などについて、友人からおしえられたことがたいへんおおい。それぞれ専門はちがっていても、方法の点では共通の問題がおおかったのである。それも、ひらきなおって科学方法論と称するほどのことではなく、研究のすすめかたの、ちょっとしたコツみたいなものが、かえって役にたったのである。そういうことは、本にはかいていないものだ。
どういうことをおしえすぎて、どういう点をおしえおしみするか。かんたんにいえば、知識はおしえるけれど、知識の獲得の仕かたは、あまりおしえてくれないのである。
資料をさがす。本をよむ。整理をする。ファイルをつくる。かんがえる。発想を定着させる。それを発展させる。記録をつける。報告をかく。これらの知的作業は、むかしなら、ほんの少数の、学者か文筆業者の仕事だった。いまでは、だれでもが、そういう仕事をしなければならない機会を無数にもっている。生活の技術として、知的生産の技術をかんがえなければならない理由が、このへんにあるのである
知的生産の技術=勉強の仕方
この本で、わたしがかこうとしていることは、要するに、いかによみ、いかにかき、いかにかんがえるか、というようなことである。それは、一種の「勉強の仕かた」に類することかもしれない
学問の方法などというと、すぐに方法論がどうのこうのという話になりやすいが、ここで問題にしようというのは、そんな高尚な、むつかしい話とはちがうのだ。学問をこころざすものなら当然こころえておかねばならないような、きわめて基礎的な、研究のやりかたのことなのである。研究者としてはごく日常的な問題だが、たとえば、現象を観察し記録するにはどうするのがよいか、あるいは、自分の発想を定着させ展開するにはどういう方法があるか、こういうことを、学校ではなかなかおしえてくれないのである
社会参加としての知的生産
研究者、学生、文筆業者、あるいはひろく情報産業従事者といってもいいが、そういう人たちの範囲をこえて、すべての人間が、その日常生活において、知的生産活動を、たえずおこなわないではいられないような社会に、われわれの社会はなりつつあるのである。
カードについて
カードにかくのは、そのことをわすれるためである。わすれてもかまわないように、カードにかくのである。
カードは、他人がよんでもわかるように、しっかりと完全な文章でかくのである。
一枚のカードには、一つのことをかく。
p.60 カード法は、歴史を現在化する技術であり、時間を物質化する方法である。
「カード法」という言い方と「カード・システム」という言い方の二種類が出てきている。
カード・システムについて
分類について
カードが何枚たまっても、その分類法についてあまり神経質になる必要はない。分類法を決めるということは、じつは、思想に、あるワクをもうけるということなのだ。きっちりきめられた分類体系のなかにカードをほうりこむと、そのカードは、しばしば窒息して死んでしまう。分類は、ゆるやかなほうがいい。
ある意味では、それは分類というようなものではないかもしれない。知識の客観的な内容によって分類するのではなく、むしろ主体的な関心のありかたによって区分する方がいい。
なんとなく興味があるのだが、どういう種類の関心なのか自分でもはっきりしない、というようなこともすくなくない。そのときには、「未整理」とか「未決定」とかの項目をたてて、そこにいれればいい。未整理のカードがいくらふえても、いっこうにかまわない。それこそは、あたらしい創造をうみだす厳選なのである。
くりかえし強調するが、カードは分類することが重要なのではない。くりかえしくることがたいせつなのだ。
カードの操作のなかで、いちばん重要なことは、くみかえ操作である。知識と知識とを、いろいろにくみかえてみる。あるいはならびかえてみる。そうするとしばしば、一見なんの関係もないようにみえるカードとカードのあいだに、おもいもかけぬ関連が存在することに気がつくのである。(中略)カードは、蓄積の装置というよりはむしろ、創造の装置なのだ。
ノートでも同じだが、カードはとくに、長年つづけてやらなければ効果はすくない。いわば蓄積効果の問題なのだから、一時的におもいついてやってみても、なんのためにこんなことをするのか、わからぬうちにいやになる。
断片について
わたしたちのなかまで、共通に確認しあったところによると、ざんねんながら、人間の頭のなかというものは、シリメツレツなものである。知識やイメージが、めちゃくちゃな断片のかたちでいっぱいつまっていて、それが意識の表面にでてくるときも、けっして論理的なかたちで整然とでてきたりしない。それを、文章にするときに、努力して論理的なかたちにくみなおすのである。「おもいつくままに」かいていったのでは、まったく文章の体をなさないだろう。
索引について
p.31 一冊を、はやくつかいきってしまうこともあり、なかなかページがすすまぬこともある。一冊をかきおえたところで、かならず索引をつくる。すでに、どのページにも標題がついているから、索引はなんでもなくできる。この作業は絶対に必要である。これによって、ばかばかしい「二重発見」をチェックすることもできるし、自分の発見、自分の知識を整理して、それぞれのあいだの相互連関をみつけることもできるのである。これをくりかえしているうちに、かりものでない自分自身の思想が、しだいに、自然と形をとってあらわれてくるものである。
目次
まえがき
はじめに
1.発見の手帳
2.ノートからカードへ
3.カードとそのつかいかた
4.きりぬきと規格化
5.整理と事務
6.読書
7.ペンからタイプライターへ
8.手紙
9.日記と記録
10.原稿
11.文章
おわりに