海外の起業家ビザ制度
日本の改正は「固定金額の閾値」で審査するタイプである。海外には異なるアプローチが存在する。
3か国比較
日本(改正後)— 経営・管理
金額要件:3,000万円(固定)
審査の特徴:一律の金額基準。事業規模・業種を問わない
アメリカ — E-2 Treaty Investor
金額要件:「相当額(substantial amount)」(固定なし)
審査の特徴:事業規模に応じた実質審査。資本は事業失敗時の損失リスクを伴う形で投入される必要がある
イギリス — Innovator Founder visa
金額要件:固定なし
審査の特徴:認定機関(endorsing body)による事業評価・推薦を重視。資金の十分性とその出所を示す必要がある
各国制度の詳細
アメリカ:E-2 Treaty Investor
「substantial amount of capital(相当額の資本)」を要件とする
公表ページ上は固定の最低投資額を掲げていない
事業の性質・規模に応じて「十分性」を判断する設計
イギリス:Innovator Founder visa
事業(アイデア)について認定機関の評価・推薦(endorsement)を必要とする
「資金の十分性とその出所」を認定機関に示す
制度説明上は「最低投資額の固定要件」を置かない運用
日本:経営・管理(改正後)
「資金の最低水準を明確な数値で切る」ことで審査の画一化・迅速化・濫用抑止を狙う設計
少額から始めるスタートアップやスモールビジネス(特に単独起業)には不利に働く
東京都が制度案内で「一人で起業することは極めて困難」と明記
示唆
日本の固定金額方式は審査の画一性・迅速性では優れるが、事業の実態(業種・規模・成長段階)を反映しないため、小規模で健全な事業者を排除するリスクがある。米英のように「実質的な事業評価」を組み合わせるアプローチが参考になる。
政府の「諸外国比較」論拠の検証
政府は3,000万円要件の正当化に際し「諸外国の同様の制度における要件等を参考」と説明している(内藤入管庁次長・衆議院法務委員会 2026-05-08)。しかし、国会答弁を精読すると次の事実が浮かび上がる。
500万円要件は「当時の米韓500万円相当」を参考に設定された
「平成12年のガイドライン策定時においてこの代替要件としまして、常勤職員2名を雇用して事業を行う場合に要する資金、諸外国の同様の制度における要件と、この当時アメリカとか韓国500万円だったんですけれども、500万円相当だったんですけれども、等を参考として検討し、新規事業を開始しようとする場合の投資額が年間500万円以上であることとしたものでございます」
— 内藤入管庁次長(参議院法務委員会 2026-04-21・仁比聡平議員質疑)
つまり、政府自身が「諸外国を参考に500万円とした」と説明していた要件を、25年後に同じ「諸外国を参考に」3,000万円とした。具体的にどの国のどの制度が3,000万円相当なのかは明示されていない。
打越さく良議員の「つまみ食い」批判
「諸外国は永住資格を取りやすかったり、全体のことを言っていただかないとつまみ食い」
— 打越さく良議員(参議院法務委員会 2026-04-14)
海外制度を比較するなら、資本金要件だけでなく永住権取得の容易さ・更新審査の運用・事業実態審査の組み合わせなど全体像で比較すべきというのが筋。資本金額面だけを切り出すのは恣意的との指摘である。
関連ページ
2025年改正の概要
政策の矛盾
代替政策案
国会審議の記録
出典
USCIS E-2 Treaty Investors:https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/temporary-workers/e-2-treaty-investors
UK GOV.UK Innovator Founder visa:https://www.gov.uk/innovator-founder-visa/eligibility
参議院法務委員会 2026-04-14(打越さく良議員質疑):https://youtu.be/DErOgTiRBe4
参議院法務委員会 2026-04-21(仁比聡平議員質疑):https://youtu.be/sJj9KOSaxOc