政策の矛盾
この改正には、政策目的と実際の効果の間に深刻なズレがある。
ペーパーカンパニー対策としての的外れさ
改正の目的
東京入管の調査では、悪用の疑いのある300件のうち9割がペーパーカンパニー(事業実態なし)であった。対策の必要性自体は理解できる。
なぜ的外れなのか
経営・管理ビザ保有者10万3,611人のうち、中国人は54,647人で過半数
ペーパーカンパニーの主体は資金力のある層
中村正人氏(ジャーナリスト)によれば、中国人経営の飲食店の店主は大半が既に永住ビザを保有しており、この改正の影響は「限定的」
資金力のある層(「潤日(ルン・リー)」と呼ばれる)にとって3,000万円は障壁にならない
牟明輝氏(東京・池袋で7店舗経営):潤日は「飲食店に投資はしても、自分で経営する人は少ない」
構造的皮肉
ペーパーカンパニーを運営できるだけの資金力を持つ層はこの要件を簡単にクリアでき、日本で真面目に飲食店を営んできた小規模経営者だけが排除される。
「悪意あれば残高証明と登記変更で通り抜け」(福島みずほ議員)
参議院外交防衛委員会(2026-04-23)で社会民主党・福島みずほ議員が指摘。
「悪意があれば残高証明と登記変更で通り抜けられる。実態調査するしかない」
— 福島みずほ議員・磯部在留管理支援部長への質疑
つまり、3,000万円という金額要件はペーパーカンパニー対策として機能しない。一時借入や登記操作で簡単にクリアできる一方、真面目な経営者だけが排除される。
「戦前の隣組のようなシステム」(児玉晃一弁護士)
D4P(Dialogue for People・2026-03-09)の安田菜津紀氏によるインタビューで、児玉晃一弁護士は同時施行された茨城県の外国人不法就労通報報奨金制度を「戦前の隣組のようなシステム」と批判した。経営・管理ビザの資本金要件引き上げは、こうした「公的排外主義の強化」の文脈で理解すべきとの指摘。
3,000万円の根拠不在
政府が示した出典の問題
衆議院法務委員会(2026-05-08)で内藤入管庁次長が初めて出典を明示した。
「国税庁の会社標本調査令和5年度のものでございますが、において法人の資本金階級別で欠損法人よりも利益法人が多くなるのは2000万円超5000万円以下の階級であること、諸外国の同様の制度における要件等を参考として検討し、資本金等の額を3000万以上とすることが適当と判断したものでございます」
— 内藤次長(西村ちなみ議員質疑)
しかし、この根拠には次の問題がある。
日本企業全体のデータであり外国人経営の中小飲食店には妥当しない
「欠損法人より利益法人が多い」階級は2,000万円超から始まるのに、政府は3,000万円を選択した
そもそも「事業の安定性」と「資本金額」を直結させる発想自体に飛躍がある
8.7%対4%の対比
日本企業全体に占める資本金3,000万円以上の割合:8.7%(総務省統計局・令和6年経済センサス)
経営管理ビザ保有者のうち3,000万円以上:約4%(西村ちなみ議員質疑で確定)
つまり、日本企業全体の9割以上も資本金3,000万円未満であるにもかかわらず、外国人経営者にのみそれを要求している。打越さく良議員が指摘する「日本人は1円創業可、外国人だけ法外な引き上げは不公理」の論拠となる対比である。
政策過程の瑕疵
4議員質疑で確定した手続上の問題点。
当事者ヒアリング不実施:「外国人当事者へのヒアリングではないものの…」(内藤次長/打越さく良議員質疑で自認)
政策懇談会出席13人中、明確賛成は1人のみ(西村ちなみ議員の議事録分析)
8/20懇談会 → 8/26パブコメまで6日(西村議員「アリバイ的開催」と批判)
パブコメ案に日本語要件は含まれず後から追加(内藤次長/西村質疑で自認)
通算在留期間(10年以上の長期在留者)は調査していない(内藤次長/仁比聡平議員質疑)
スタートアップ推進政策との矛盾
東京都の公式見解
東京都はスタートアップビザの案内で、改正後の要件について「外国人が国内のパートナーなしに、一人で起業することは極めて困難」と明記している。
スタートアップビザへの波及
経済産業省の要件見直し資料で、見込み基準が「500万円→3,000万円」へ変更
常勤職員の従事見込みも要件化
地方自治体の起業家誘致政策との緊張関係(誘致促進と要件厳格化の同時進行)
兵庫県の案内でも常勤職員1名以上+財産総額3,000万円以上が前提条件として記載
関連ページ
出典
参議院外交防衛委員会 2026-04-23(福島みずほ議員質疑)
衆議院法務委員会 2026-05-08(西村ちなみ議員質疑)
国税庁「会社標本調査令和5年度」
総務省統計局「令和6年経済センサス基礎調査」