未踏ジュニアの歩みと未踏エコシステムについて
https://www.youtube.com/watch?v=k6krxSd11As
動画の内容のダイジェスト(親項目が近藤さん、子項目が無記名の場合は西尾)
Q: 未踏ジュニアは順位はつかないんですよね?
A: 順位はつかないです。すごいものは皆それぞれ異なったベクトルですごいので、それに順位をつけることはできないと思っています。
Q: どんな人の応募がある?起業したい人、作りたいものがある人?
A: 両方いる、どちらが多いとも言えないくらい多種多様
Q: 「どんな人に来て欲しい」はある?
A: 個々のメンターはメッセージを出している。モワっとしているのでこれを見て狙っていこうとしてもうまくいかないと思う。これは言葉にできない。実際の提案を見たときにグッとくる/こないが決まる。
「顧客に商品を見せるまで顧客はそれが欲しいかどうかを判断できない」というマーケティングでよく語られる話と同じで、メンターの側も実際の提案をみるまでそれを応援したくなるかならないかはわからない。
なので「どういうものが求められてるか」ベースで提案を作るのではなく「自分はこういうものが作りたいんだ!」と熱量高くアピールした方がいいんじゃないかと思います
Q: アップデートされる?
(安川)今年アップデートした。元々は「Webの特徴を活かした」と書いてたが、実際の採択はそれに全然マッチしていなかったので外した。振り返って見たら自分が重視しているのは「情熱」だと気づいた
(西尾)いくつも採択していくうちに枝葉の部分はそれほど重要ではないなと思うようになってきて、そうなると「新しいことにチャレンジ」とか「情熱」とかどんどん抽象的な話になる
Q: メンターを攻略するゲームとして捉えられても困る?
困るというより「それをやってもあなたが不幸になりますよ」という感じ。結局未踏ジュニアって「あなたがやりたいことを支援する事業」なので、採択されたらやるのは我々じゃなくて応募したみなさん、あなたが本当にやりたいことを提案しないと採択されても後であなたがしんどいだけ
Q: とてもメンターに属人的というか、メンターの判断に任されている感じですよね
(安川)IPAが2000年に開始した未踏事業も同様に個人の裁量を高くしていて、20年以上やってきて今でもそれが好ましいことだと考えている。自分も西尾さんもIPA未踏事業の卒業生で、その価値観を共有している。
(西尾)どちらの事業でもPMとかメンターとか呼ばれる個人の目利きの力を信じる。委員会形式で「みんなで相談して決めましょう」だと、どうしてもみんなが無責任になる。そうではなく一人のメンターが「自分はこのプロジェクトを取るんだ」と全責任を負って意思決定するところに迫力がでる、メンターの側に「熱意」が生まれやすくなる。 エクサキッズの話、ITに限らず広いので「評価基準」を作ることが困難 評価基準を決めるのは現実的に無理、提案の側がどんどん多様化していくので、評価基準を決めると遅れた古臭いものになる。本当に新しいものを評価したいなら評価基準がない方が正しい。
「遅れる」というのが面白い
(安川)トレードオフがある。基準を決めるとスケールメリットが出る。基準を決めれば何百作品も審査することができるが、未踏ジュニアはそれをしないことで数が限られてしまっている。一長一短があるので両方あるのが社会にとって好ましい。
(西尾)ご指摘の通り。基準を決めることのメリットは効率が良くなること、なのでたくさんを捌こうと思うなら基準は必要になる。一方で基準を決めると現実の変化からは取り残される。このトレードオフなので、両方が社会の中でバランスするのが良いですね。
エクサキッズは今は一次審査も最終審査も審査基準があるが、後者はなくてもよいのかも。審査基準があると審査が公平かどうかの議論になるが、審査基準を取り払って審査員がグッとしたかどうかで決めることにすればプレゼンターにとっても不公平感がないのかも
その方法の良い点が一つあって、たとえ不採択になったとしても「あなたのプロジェクトが悪かったわけではなくて、たまたまそこにあなたのプロジェクトの良さを理解できる大人がいなかっただけなのだから、新しいところに行ってもっと多くの人に見せたらどうかな」と発展的な提案ができる。
これがもし良い悪いの基準が決まってて「あなたのプロジェクトは基準に照らし合わせて悪いプロジェクトです」となってしまうと続ける気がなくなってしまう。だけど大体そういうところの審査に上がってくるプロジェクトって全部「いいプロジェクト」なので、萎えてしまうともったいない。
Q: 同じ人が勝ってしまう問題、どう思う?
(安川)未踏ジュニアでもそれはよく観測される。年齢で切ってるコンテストだとそういうことが発生しやすいと思う。一方で未踏エコシステムとしては17歳以下の未踏ジュニアで採択された後、24歳以下の未踏IT、年齢制限のない未踏アドバンスト、とあるので大学院生向けのプログラムとか年齢制限のないプログラムとかにチャレンジしてもらえるといいのかなと思います。
(西尾追記: 社会でビジネスをしようとしたら年齢による優遇はないですからね。)
(西尾)同じ人が入賞してしまうことが問題なら、もっと大勢の「入賞に値する人」を発掘することを大人が頑張っていかないといけないのではないか。少数の人が伸びるとその人ばかり入賞してしまうが、100人が伸びればその100人の中から選ばれるので入賞者がまちまちになる。発掘育成をもっとやって入賞に値する人が増えるように大人が頑張る必要がある。
Q: 未踏ジュニアは「育てる」と「発掘する」でいうとどちらより?
(安川)両方
(西尾)本当を言えば応募してきたプロジェクトを全部支援して育てたいのだけど、それをやろうとすると僕の体が100個必要になってしまう。現実的には体は一つしかないのでどうしても一部を選択するしかない。このせいで発掘的要素が出てきてしまうのかも。
Q: コンテストをやってて悩む、コンテストを通じて参加者に育ってもらうのか、育っててまだ埋もれてる人を発掘するのか
これは未踏ジュニアの総意ではなく僕の主観ですけど、未踏ジュニアは何ヶ月間か伴走してプロジェクトをやっていくという事業なので、発掘より育成にウェイトを置くべきなんじゃないかなと思ってます。既に十分出来上がってるプロジェクトを採択して、それに伴走してメンターは一体何をするのか、メンターは社会に価値を生み出しているのか、メンターが価値を生み出すには採択時点である程度発展の余地のあるものではなければならないのでは。というわけでこの種の事業は育成にウェイトがあるべきかなと思います。
一方で、単発の提案を見てそれを表彰するなら、育成をする時間的余裕がないと思います。育成には時間が掛かりますから。なので短いイベントになるほど発掘のウェイトが高まるのではないでしょうか。
(安川)IPAの公式の表現としては「突出したIT人材の発掘と育成」となっている。すごいものにライトを当てることと、伴走して育てることがセットになっている。
未踏IT、未踏アドバンスト、未踏ターゲット、未踏ジュニアの4つの事業は連携し合っている。例えば未踏ジュニアの卒業生が未踏ITに応募したり、未踏ITの卒業生が未踏アドバンストに応募したり、それらの卒業生が未踏ジュニアのメンターをやったり、そういった人の流れ・人のネットワークが構築されている。これが「未踏エコシステム」だと考えている
Q: コンテストをやっていて「その先に続くもの」「出た人がつながる仕組み」をやりたいと思っている
2011年にネットワーク形成システムとしての未踏という文章で、未踏という事業が人と人のネットワークを作り出すシステムとして機能していることを書いた。何が良かったのかというと未踏が採択された現役性、同期だけのグループではなく、そこに過去のOB・OGが参加してワイワイする場を毎年設けていた。そうすると各年度ごとの同期のコミュニティと別に、縦糸が発生して、縦糸と横糸で人が編み込まれていく、ということが発生していた。これを20年ほどやったことによって人のネットワークが大きく育った、これが「エコシステム」が注目されるようになった理由なのかなと思う。 Q: いいですね
簡単に採用できるポイントとしてはOB・OGが現役生とコミュケーションする場を作るといいですよ。実際未踏ジュニアも未踏のOB・OGコミュニティから生まれてきたわけですし。
Q: 2〜3回参加してる人は裏方でをやったり、自分が勝つためではなく盛り上げることをやったりして嬉しい
それはすごく良いこと。つまり個人が自分の熱意に基づいてコミュニティをよりよくすることに寄与しようと活動している。これはすごくよいことだ、と運営が火を煽るようなことをしていくと、大きなキャンプファイヤーになるのではないか Q: つなぐのが、小学生だと難しい。スマホを持っていないなど、自分の裁量でできることが少ない
(安川)未踏エコシステムはなんせ未踏が20年前からやっているから年齢はバラけている感がある
(西尾)小学生がネットワークのハブ的役割を果たしにくいのは、小学生だから仕方なくて、小学生もあと10年くらいすれば成長するから、今はハブ的役割ができなくてもネットワークの周辺部分で活動して、成長に伴って徐々にハブに近づいて、10年後にはバリバリ活躍してくれる、そういうのを期待して育成していく、というのがいいのでは
Q: いま不足してるピースは?
(安川)未踏ジュニアのメンター個人としては「何を採択するか」しかできることはなくて、自分の採択では、トレンドに乗ろうとするよりはトレンドは脇に置いて自分が好きなもの情熱を持ってやっているプロジェクトを選ぶことでハイライトされる分野を増やして、より幅広い分野に多くの人が注目してくれると良いのかなと思う
(西尾)安川さんの言いたいこととしては「こういう提案が採択されるものだ、こういうものは採択されない」という思い込みの枠をぶち壊してあげたいってことなのかな、それはすごく共感します
(西尾)本当を言えば100件すべての提案に対して1時間くらい話を聞いてフィードバックを返すということができればいいのだけど、現実には体が1つしかないので10件くらい選ぶ形になっている。でも、残り90件の人にフィードバックを返さないのはもったいないなと思っていて、もっと「自分のやりたいことの話をじっくり1時間聞いてもらって、生産的なフィードバックを返してもらう機会」が世の中に満ち溢れれば、世の中が良くなっていくんじゃないかなと思っています。たまたまそういう機会に恵まれた人とそうでない人で差が出てしまうのはもったいないので「すべての人に相談できる相手がいる」のか好ましい、これがご質問の「足りてないピースはなにか?」に対する僕なりの答えです
Q: もっとスモールメンターが増えたらいいね、ということですね。たしかにいないかも。エクサキッズを作ったときも、すごいものを作ってる子が「誰も話を聞いてくれない」となってた。学校の先生に話すと「そんなことより宿題しなさい」と…
もったいない、「やれと言われた宿題をやること」より「自分が考えたテーマに取り組むこと」の方が今後の時代を考えると重要なわけですけど、学校の側はどうしてもそれを評価する形にスピーディには変わっていかないわけで、学校の評価制度のアップデートが遅いせいで取りこぼされる子がいるのはもったいない。取りこぼされるって表現はおかしいですね、彼らの方が学校より先を進んでいて、学校がそれについてきてない、そのせいで彼らが凹まされるのはよくない。
(西尾)僕はCoderDojoは詳しくないので近いうちに見に行こうと思うんですけど、CoderDojoは一つの解だと思います。
(安川)知らない人のために解説するとCoderDojoは学校の外のプログラミングクラブで、カリキュラムや教材があるのではなく、一人一人が作りたいもの・やりたいことを持ち寄って、メンターは教えるというより話を聞いて相槌をうつ的な感じで、そういう場が日本に200くらいある。
ITeens Labは営利的プログラミング教室だけど方針は近くて、教材やカリキュラムよりも「聞いてくれる人を提供する」ことがコアバリューになってるように感じている。教材よりもメンターが足りてない、という話に納得感がある 多分教材ってスケールして広く伝えることができるけど、メンタリングは広く「これを読んでください」では実施できない、人間が聞いてあげる必要がある。このスケールしない性質のために不足が起きるのではないか
「誰にも話を聞いてもらえない」という子が多い
わかる人が聞けば「すごいことやってるじゃん!!」とテンション上がって楽しく聞けるような内容なのに、たまたま物理的に近い範囲に「わかる人」がいないだけ、もったいない。
インターネットで離れたところがつながるようになったわけだから、彼らと気の合う人、可能なら年齢層も近い人が見つかるとお互いにハッピーだと思うんです
目の色が変わりますね
人生も変わると思います
教育のイベントにエンタメ要素を入れていきたい、そういう要素も業界として足りてないのではないかと思っている
中国のロボコンとかアニメ展開までしてますよね、子供たちのヒーロー的になってますよね。「このシステムを作ったエンジニアは彼です!」みたいな感じでカッコいい写真付きで紹介されて、「憧れ」を作り出すことをかなり上手くやってる印象があります。
Q: 未踏ジュニアはロールモデルを作ろうとはしないんですか?
(安川)ロールモデルを採択したプロジェクト単位でバンバン出していってるイメージ
(西尾)我々大人が考えるロールモデルは既に古臭いので、若い人が活躍しているところをもっと若い人に見えるようにするということが正しいのかなと思う
Q: エクサキッズの理念に「子供たちに未来を見る」というのがあって、大人たちが未来を定義するのではなく、子供たちが出してきたものを見て「未来ってそうなるんですかー!」と教えてもらう
同じ気持ちです。子供たちに教えてもらうという気持ちが大事だと思います。
--memo
エンジニアの知的生産術は僕がエンジニアだからタイトルに入れたのだが各方面から「エンジニア以外にも役に立つじゃないか」と突っ込まれている 知的生産とはどういうものなのかをエンジニアの視点から論理的に言語化した本