結婚満足度
alias: 夫婦関係満足度
結婚満足度(夫婦関係満足度)
初期の研究ではU字型の変化が報告されていたが、その後の研究では直線的もしくはL字型のように減少するという見方が主流になっている(Bradbury et al., 2000; 永井, 2011; Vaillant & Vaillant, 1993)
結婚後数年間で満足度が低下する原因の一つに、子どもの誕生があげられる(Belsky & Kelly, 1994; Cowan & Cowan, 1992; 伊藤, 2015)
親役割への移行はそれまでの大人中心の生活を一変せざるを得ず、夫婦間の葛藤を高め(特に妻側の)結婚満足度を低下させやすい
結婚満足度は総じて女性の方が低い(Fowers, 1991; Jackson et al., 2014; 柏木・平山, 2003)
この一因として、夫婦間で交換されるサポートのギャップが指摘されている(Belle, 1982; Cutrona, 1996)
一般に結婚生活から多くを得るのは女性より男性とされる
妻は大頭に対してより多くの情緒的・道具的サポートを提供し(平山, 1999)、健康にも気を遣うため、総じて既婚男性は独身男性よりも心身の健康度が高い(稲葉, 2002; Kiecolt-Glaser & Newton, 2001)
女性ではそうした結婚による健康への恩恵はあまり見られず、むしろ夫婦間葛藤の経験が心身の健康を損ないやすいことが示されている(伊藤, 2015)
結婚は世界的に見ても、男性により多くの恩恵を与えるが、日本の夫婦関係に関する研究では、こうした傾向がさらに顕著に見られることが指摘されている
これは、日本の女性が育児、家事、仕事、介護など、多重の役割を担い、それによって夫婦間の結婚満足度のずれが生じるためだとされる
実際、20代から60代の夫婦を対象に、日本で行われた大規模な質問紙調査の結果によると、結婚して間もない時期(5年以下)を除き、妻の結婚満足度は夫に比べてかなり低く、特に結婚後15年以上の夫婦では、その差は歴然としていた(菅原・小泉・詫間・八木下・菅原, 1997)
https://gyazo.com/44f3d27a3c094dd735405ecce1b62820
これは横断的な調査であり、同じ夫婦の結婚満足度の推移を追ったものではないが、結婚生活に対する考え方、感じ方が夫婦間で異なることは確かだろう
夫婦間の結婚満足度のズレを説明する理論の1つに社会的交換理論がある
財の交換
一般的な経済活動: 具体性が高く、個別性が低い財
対人間: しばしば具体性が低く、個別性が高い財
この最たる例が夫婦関係における財の交換
諸井, 1990, 諸井, 1996は既婚女性に調査をし、夫婦関係を維持する上での自分と配偶者の貢献(インプット)と夫婦関係からそれぞれが得ているもの(アウトプット)を尋ねた
この得点の差を衡平性の度合いとしたところ、衡平の低さは満足感の低さと関係し、利得が小さい場合には怒りが、利得が大きい場合には罪責感が生じることを明らかにしている
ただし、夫婦間の衡平性の認知は両者の性役割観によっても左右される(諸井, 1990)
妻自身が伝統的性役割観を持っている場合には、過小利得に対する不満は最小化されるため
傾向
伝統的性役割観を持つ妻 × 平等的性役割観を持つ夫: 満足感は高い
伝統的性役割観を持つ夫 × 平等的性役割観を持つ妻: 満足感は低い
平等的性役割感を持つ妻は夫との比較によって衡平感を認知する
伝統的性役割観を持つ女性は、自分と同じ立場にある他の女性と比較して衡平感を抱く
妻の結婚満足度を規定する重要な要因には、夫から妻への情緒的サポートも挙げることができる
家庭内の労働の多くが感情労働と考えられることに由来する
家庭内の労働も、自然に喚起される感情を抑制したり、本来は喚起されていない感情を無理に呼び起こしたりするなどして感情を調整することが求められることから感情労働と共通点が多いが、賃金による対価がないという点ではさらに負荷が高いと言える
すなわち夫から妻への情緒的サポートは、感情労働に対するある種の対価だと考えることができる
この種の研究はアメリカで数多く行われてきたが、日本でも夫が妻を情緒的にサポートするほど妻の結婚満足度が高くなること、またその効果が家事を分担したとき以上のものであることが、末盛, 1999によって示されている
またこのような情緒的サポートと結婚満足度との関係は、伝統的な性役割観を持つ妻において顕著であることも明らかにされている
家庭以外の場で他者から評価あれることが難しい専業主婦にとっては、夫からの評価やねぎらいがとりわけ重要な意味を持つことがうかがえる