定向進化説
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生物のある系統群に属する化石を産出年代順に並べると、それらの形態的特徴に一定の方向性をもった変化がしばしば認められる。このような変化の傾向を定向進化という。直進進化あるいは指向進化などともいう。 現在ではこれらの定向進化説は一般的には受け入れられていない。しかし、大進化的時間尺度におけるなんらかの形態上の諸傾向は、事実としては広く認められている。当初考えられていたほど単純ではないにしても、ウマの指の短化や歯の複雑化、ゾウの牙(きば)や鼻の伸長、エルクジカの角(つの)の巨大化などが具体例としてよく引用される。そのような傾向はどのようにして生じたのかがいま改めて問い直されている。というのは、これは、従来漸進説の立場で、恒常的な環境条件と選択圧の方向性を仮定して、やや安易に説明されてきた、もしくは、その傾向自体が厳密でないとして無視されてきた。それに対して、1970年代以降、断続説(区切り平衡説)が提唱され、種形成の分岐が相反する方向に確率的に均等に生じるとしても種の絶滅率に差(スタンレーS. M. Stanleyのいう種選択)があれば定向性を説明できるし、また新種産生率そのものに差があれば結果は同じになるという。これは漸進説‐断続説論争の主要な争点とされるからである。[遠藤 彰] 定向進化説(ていこうしんかせつ)とは、生物に、一定方向に進化を続ける傾向があることを認め、それを進化の原因とみなす説のことである。系統発生説とも呼ばれる。 定向進化(ていこうしんか)とは、生物の進化において、一度進化の方向が決まると、ある程度その方向への進化が続くように見える現象をいう。 例えばウマの進化では、背の高さ数十cmで、足の指が四本ある先祖から、現在の大型で足指が一本のみの姿まで、いくつかの中間的な姿の種を経て一つの系列をなしている。このことから、ウマの進化には一定の方向があり、その方向への進化が続いたのだと見なす場合、これを定向進化と呼ぶ。また、マンモスの長大でしかも大きく曲がった牙や、オオツノシカの巨大な角などは、実用的とは見なしがたい。それらの構造は、その先祖においては、明らかに生活上有効に働いていたと思われるが、そこまで巨大になる必然性が感じにくい。そこで、それを説明するために、定向進化が働いたため、言わば進化の進行にブレーキが効かなかったのだ、というふうに考える。 定向進化を生物のもつ内在的な特徴であると見なし、生物の進化がそれによって方向づけられていると説明する説を定向進化説という。T.アイマー、E.D.コープ、H.F.オズボーンら古生物学者によって提唱された説である。いずれも定向進化を生物のもつ特徴と見なす点では共通するが、その原因の説明は必ずしも共通せず、現象面の指摘に止めるものから、それを引き起こす生物内の原因を仮定する立場まで幅広い。しかし、一般にその理由を生物内にある方向づけに求める印象があることから、ジャン=バティスト・ラマルクの進化論の流れをくむ、いわゆるネオ・ラマルキズムの一つと見なされ、否定的に判断される場合が多い。分子遺伝学の理論からも、これを支持するのは困難である。