ホメオティック遺伝子
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塩基配列の保存
ホメオドメインタンパク質のモチーフ(繰返し節の特徴)は、広大な遺伝距離に渡って非常に保守的(異なる種の間で変化が少ない)である。ホメオティックタンパク質の機能的同一性は、ハエのホメオティックタンパク質をニワトリのそれと入れ替えても、ハエは完全に機能するという事実が示している。 これは、その最も近い共通祖先の年代が6.7億年以前であるにもかかわらず、ニワトリの任意のホメオティックタンパク質の遺伝子の一つと、それに対するハエの相似遺伝子は、実際に互いに交換可能なくらい似通っているということを意味する。 タンパク質のアミノ酸配列が高度に保存されているにもかかわらず、DNAの塩基配列は、コドンの縮退のために、やや保存度が低い(つまり、同じアミノ酸に対応する遺伝コードが複数存在する場合があるということである)。この高度な保存性の理由は、これらのタンパク質の機能に関係している。ホメオティック遺伝子群は組織の基本的な空間的レイアウトを用意する。これによって、目は腹部ではなく頭部に、脚は頭部ではなく側部に形成されることになる。もし、たとえ1つの突然変異がDNAに生じても、これらの遺伝子群は組織にドラスティックな影響を与えることになるので(後述の「ホメオティック突然変異」参照)、これらの遺伝子の長い年月に渡る変化は相対的に小さいのである。 ホメオドメイン
このホメオドメインは、エンハンサーと呼ばれる特定の塩基配列に結合し、転写をオン・オフする、いわばスイッチであり、結合により遺伝子を活性化する場合も抑制する場合もある。同一のホメオティックタンパク質が、ある遺伝子では抑制的に働き、他の遺伝子では促進的に働くことが可能である。 ホメオドメインが結合するエンハンサーの塩基配列
ホメオティック遺伝子群の制御
ホメオティック遺伝子クラスター内にコードが位置しているmiRNAストランド(1本鎖短RNA)は、もっと前方のホメオティック遺伝子群を抑圧することが示されている (「後方発現現象」)。恐らくこれは、表現型を微調整するためのものであろう。 ホメオティック突然変異
ホメオティック遺伝子群の不正確な発現は、個体の形態に大きな変化を引き起こす。1894年にウィリアム・ベイトソンは、花の雄しべがたまに誤った位置に発現することに気づき (彼は本来なら花弁が生える位置に雄しべが生える花のサンプルを発見した)、これが最初のホメオティック突然変異と同定された。 1940年代末にエドワード・ルイスは、キイロショウジョウバエにボディパーツの奇怪な再配置を発生させるホメオティック突然変異の研究を開始した。脚の発現をコードする遺伝子の突然変異が奇形や死を引き起こす。例として、アンテナペディア遺伝子の突然変異はハエの頭部に触角ではなく脚を生じさせる。 キイロショウジョウバエについての他の有名な例は、第3胸節を規定する Ultrabithorax ホメオティック遺伝子の突然変異である。正常な状態では、この体節は1対の脚と1対の平均棍 (翅が退化した器官) を持つ。変異体では、機能する Ultrabithorax タンパク質を欠いており、第3胸節はその直前の第2胸節 (1対の脚と1対の完全は翅を持つ) と同一の構造を発現することになる。これらの変異体は、自然の状態の個体集団でも現れることがあり、これがホメオティック遺伝子の発見に結びついた。 ホメオティック遺伝子のコリニアリティー
様々のホメオティック遺伝子が染色体上のグループまたはクラスターとして互いに非常に接近して配置されている。
ホメオティック遺伝子の分類
ホメオティック遺伝子群の系統学的な分布
脊椎動物のこれらの遺伝子は脱皮動物に見られる遺伝子の重複なのであるが、これらの4組のコピーは実際には同一ではない。各コピーには時間の経過とともにそれ自身に特有の突然変異が蓄積され、特有の機能を持つタンパク質を生産することになる。いくつかの脊椎動物のグループでは完全に消滅してしまったり、あるいは再度重複が生じた遺伝子もある。 例えば、Hoxa と Hoxd は脚の軸に沿った節の配置に関係している。脚における Hox の発現は2段階である、早期の発現は腕を形成し、後期の発現は指を形成する。これには Hoxd 8 から 13 が関係しており、別個に Hoxd 13 の 5’制御領域を持つ (これは真骨類魚類では発見されていない)。 沿革
エドワード・ルイスは次の段階 (幼虫の節の特定の体節への分化を支配するホメオティック遺伝子) を研究した。 ホメオティックとは、何かあるものがそれと似た別のものに変化してしまったことを意味する。ルイスはバイソラックス複合遺伝子の中に存在する時間的、空間的な順序における遺伝子のコリニアリティーと、それに支配される体節の領域を発見した。この業績に対して1995年にノーベル生理学・医学賞が授与された。