2. ヒトの進化
https://gyazo.com/2a6b1f2dcccb3e73a8dab8c63dd4a73e
1. ヒト族の進化
1-1. ヒトの分類上の位置
など
1-2. チンパンジーとの分岐
現存する種でヒト科に含まれる
ヒトとチンパンジーは1.24
ヒトとゴリラは1.62
チンパンジーとゴリラは1.63
チンパンジー・ボノボとヒトの共通祖先が枝分かれした時期に始まった
95%の確率で940万年前から540万年前の間にある
1-3. 直立二足歩行
ある化石がチンパンジーの共通祖先と枝分かれした後の祖先かどうかの判別
足の親指が他の指と対向していて、木の枝をつかむことができた
なぜ直立二足歩行をするようになったのか
ヒト族が登場する700万年前は中新世(約2300万年前から500万年前)の末期 アフリカでは熱帯雨林が減り、乾燥した草原が増え始めた 現存する大型類人変はいずれも熱帯雨林で生活している
大型類人猿にとっての快適な生息地が減少したため、私達の祖先は草原に進出せざるをえなかったのだと考えられる
草原進出の前に、群れの仲間たちには手が届かない木の実を食べることができることの競争上の利益は大きかった
それでも足りなくなると、いよいよ未知の草原に出て餌を探すことになる
直立二足歩行で草原を移動するようになると、暑い日差しの下での体温調節が必要になる
直立二足歩行は体温が上がりにくい移動方法
日差しが頭部や肩に限定される
しかし狩猟採集のために長距離を移動するようになると、追加の体温調節が必要になったはず 暑い日中の移動のために体毛を手放すには、気温が下がる夜間に体温を保つための技術(衣服や火の使用等)が必要だっただろう 2. 脳の進化
2-1. 大きな脳
チンパンジー2.2~2.5
ヒト族の中で脳が急速に大きくなった
アウストラロピテクス属の中でそれぞれ比べると、体が大きい種ほど脳も大きい傾向がある
ホモ属でも体重の増加とともに脳容積が大きくなっている
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約230万年~160万年前
ハビリスの脳容積はアウストラロピテクスを若干上回る程度
ホモ属としては小さすぎるという見方もある
手の化石は現代人と同じような解剖学的特徴を持っていた
180万年ほど前に、ホモ属の種として初めて出アフリカ アジアで化石が発見されている
化石の時代や出土した場所によって体の大きさもかなり違っており、脳容積の推定値にもかなり幅がある
ホモ・サピエンス
約20万年前
大きい種
近縁種の関係にある
2-2. 脳と腸の関係
脳は体重の2%で身体全体の20%のエネルギーを消費する
仮に大きな脳を持つことが生存・繁殖面で有利だったとしても、別の部位で使用するエネルギーを犠牲にせずに脳を大きくすることはできない
ヒトの体の中で維持するために多くのエネルギーを必要とする器官は、脳、消化管、肝臓
サルに期待されるそれぞれの器官の重さを推測し、実際の重さと比較した
心臓・腎臓・肝臓は期待値とはほぼ同じ重さ
脳が重くなっている
消化管が軽くなっている
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草原に進出した初期のヒト族はさほど消化しやすい食べ物に恵まれていたわけではない
チンパンジーの食事
60%程度は熟した果実
アウストラロピテクスの歯の化石
殻に包まれた果実や種を食べるのに適している
草原で塊根や塊茎を掘り出して食べるようになったとも考えられている チンパンジーとくらべて消化しやすい食物を利用するようになったとは言えない
ヒトの祖先の食事内容の転機は、日常的に肉食を開始したことだと考えられる 340万年前の草食動物の骨の化石から、ヒトの祖先が石器で肉を削ぎ落とした傷跡が見つかっている ヒト族の祖先が最初に肉食を開始したときには、狩猟によって肉を手に入れたわけではない 肉食動物の食べ残しや自然死した動物の死体から肉を得ていた
石器で削ぎ落とした傷跡に加えて、肉食動物がつけたと思われる傷が同じ骨に残っていることから推測
ヌーの後ろ脚の食べ残しの骨には1kg強、シマウマの後ろ足の骨には2kgの肉が残っていた
2-3. 社会脳仮説
脳を何に使っていたか
ヒトの生活史の変化から考えると、高度な生業技術の学習のために高い学習能力が必要になったことは確実 他者との同盟関係の維持や、ライバルを出し抜くために高い知性が必要とされたという考え方がる
霊長類の脳のうち特に推論や意思決定のような高次の認知機能に関わる新皮質の大きさは、霊長類の群れの大きさと相関している https://gyazo.com/6ef3918ec4c0323daf3931103125a76b
群れの生活における複雑な社会関係に対処するために脳(特に新皮質)が大きくなった
3. 現代の狩猟採集民
3-1. ヒトの生活史の特徴
ホモ・サピエンスの当時の生活を知りたいと思ったときに最も参考になるのは、狩猟採集の生業形態を維持している現代の狩猟採集民 ホモ・サピエンスが誕生したときには、すべてのホモ・サピエンスが狩猟採集民だったので、農耕民との競合はなかった 新しい技術が導入されている(鉄の矢じりなど)
年長の者に依存する期間が長いこと
繁殖可能年齢を過ぎた者が血縁者の繁殖をサポートすること
男性が配偶者とその子供へのサポートを提供すること
2つ以上の特性がお互いに影響を与えながら共に進化すること
ホモ・サピエンスの4つの特徴と脳が大きく学習能力が高いという特徴は互いに影響しながら一緒に進化したと考えられている
これらの進化に通底するのが食事内容の改善
狩猟採集民の食物資源のレパートリーの広さには目を見張るものがある
パラグアイのアチェ族は、少なくとも78種類の哺乳類、21種類の爬虫類または両生類、150種類以上の鳥類を狩りの獲物にしている 多くの肉食獣は幼かったり年老いたりして捕まえやすい獲物を狙うのに対して、狩猟採集民は栄養価という観点から最高の状態の獲物を狙う傾向がある
ヒトと他の肉食獣とで獲物の競合が起きにくくなっている
3-2. 長い幼少期と長い寿命
このような高い生業技術は一朝一夕に身につくものではない
狩猟採集民の男性、女性の年齢ごとの1日の食物生産量と消費量をチンパンジーのそれと比較
https://gyazo.com/1eade9976c0f5a35c038992fba09186b
チンパンジーでは5歳くらいまで(離乳まで)消費量が生産量を若干上回るが、それ移行は自分で消費する分を自分で生産していて、生産量と消費量がほぼ等しくなる
狩猟採集社会の生活は、長期間の訓練を要する習得困難な技術に依存している 男性の場合、生産量が消費量に追いつくのは20歳になる少し前
女性の場合、45歳くらいまで消費量のほうが生産量を上回っている
長期間の訓練を可能にするのが、年長者に依存する期間の長さ
これにともなって繁殖開始年齢も遅くなる
狩猟採集民の女性が最初に出産する年齢の平均は19.7歳
チンパンジーの14.3歳よりも5年ほど遅くなっている
ヒトの繁殖可能期間が短くなっているわけではない
最後の子供を出産する平均年齢は狩猟採集民では40歳、チンパンジーでは27.7歳
食物生産技術の獲得に長い時間を要し、繁殖開始年齢を遅らせるという特徴は、長い寿命と強く関連する
15歳までの生存率をチンパンジーと比較すると、狩猟採集民の平均は60%であるのに対して、チンパンジーでは35%
15歳まで生存していた者の平均寿命を計算すると、狩猟採集民では54歳だが、チンパンジーでは30歳
長寿を可能にする要因は、高品質の資源の獲得能力
栄養価の高い食事が死亡率を下げる
高度に発達した狩猟の道具は捕食者から身を守るのにも役立つ
長生きしないと元が取れないという生活史上の特徴は、集団内での協力も促したと考えられる 狩猟採集社会の人々には、病気や怪我で活動できない日が6%から20%程度あると推定されている
この期間、食料を融通してもらうことで快復が可能になる
自分たちの居住地の近くにヒトを襲う肉食獣が出たときには、抗体で夜通しの見張りをすることもある
3-3. 父親・祖母によるサポート
女性のデータを見ると、女性の食物生産量が消費量を上回るのは45歳あたり
成人後にこの不足するエネルギーを供給しているのは主に配偶者
男性は自分で消費するより多くのエネルギーを生産し、その資源を自分の配偶者と子供に提供している
父親によるサポートは、早い離乳を促すことを通じて、短い出産間隔を可能にしていると考えられる 新生児の体重を比べると、狩猟採集民(3kg)のほうがチンパンジー(2kg)より大きな赤ちゃんを生む
ヒトのほうがゆっくり繁殖しても良さそうなものだが、むしろヒトのほうが出産間隔が短い
狩猟採集民では平均41.3ヶ月、チンパンジーでは平均66.7ヶ月
授乳中の女性では排卵が抑制されるから、出産間隔は離乳時期と関係する 男性によるサポートに加えて、閉経後(45歳以降)の女性が自分で消費するより多くのエネルギーを生産していることも重要 チンパンジーは繁殖可能年齢が終わるのと平均寿命がほぼ一致しており、閉経期がない
ヒトの女性は比較的長い閉経期がある
この期間の女性は余分なエネルギーを生産し、それを子(孫)に提供している
もし閉経後の女性のサポートが孫の生存率上昇に寄与するのであれば、繁殖可能年齢語の女性が長く元気に働けるように淘汰がかかるはず
ヒトの女性が閉経後にも長生きすることで孫の適応度を上昇させるという考え方
狩猟採集民とチンパンジーの生活史を比較すると、ヒトの進化が食事内容の改善による脳容積の増加という単純なものではないことがわかる
少なくとも4つの生活史上の特徴と共進化したと考えられる