ネアンデルタール人
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他の例に漏れず、化石人類としてのネアンデルタール人の位置が確定するまでには紆余(うよ)曲折があった。
1856年、ドイツ、デュッセルドルフ近郊のネアンデル谷(タールは谷の意)の石灰岩洞穴より、1体の人骨が偶然に発見され、その異様な形態から、かつてヨーロッパに住んでいた原始人類の遺骨として発表された。
これに対して、人類学界の一大権威であったドイツの病理学者ウィルヒョウ(フィルヒョウ)が、その原始的特徴を病理的なものであると判断したため、この人骨は当時の人々から無視された。 一方イギリスでは、地質学者A・キングがこれを絶滅種の人類であると考え、1864年に「ホモ・ネアンデルターレンシス」と命名した。1901年、ドイツの人類学者シュワルベが、この骨と、1886年にベルギーで発見されたスピー人骨とを比較するに及んで、これらが原始的な人類であることが確かなものとなった。 そのほか同類の人骨が、クロアチアのクラピナ(1899~1905)、フランスのラ・シャペル・オ・サン(1908)、ル・ムスティエ(1908)などヨーロッパ各地から発見されている。さらにヨーロッパ以外でも、イスラエルのカルメル山からタブーン人(1931~1934)、アフリカではカブウェ人(ローデシア人)(1921)、イラクではシャニダール人(1953~1960)など、ネアンデルタール人の遺跡は広く散在している。 これらの人骨の頭蓋(とうがい)容量は1300~1600立方センチメートルと現生人類なみか、ときにはそれを超えるほど大きいが、頭高はかなり低く、とくに前頭部の発達は悪い。眼窩(がんか)上隆起は著しく、強い突顎(とつがく)を示し、顔面部は大きい。身長は低く、成人男子で平均約155センチメートルと推定され、体格は頑丈である。 ネアンデルタール人は、長い間、現生人類とは類を異にする独立種とみなされていた。しかし、埋葬を行うなど、高い精神性を示す証拠が発見されたこと、また現生人類への移行形の人骨が発掘されていることなどを考慮して、今日では現生人類と同種のホモ・サピエンスのなかに入れられている。 シャニダール遺跡の洞窟(どうくつ)に埋葬されていた人骨の下の土壌からは、今日でもその周辺に咲く花の花粉が出土し、「最初に花を愛でた人々」とみなされるようになった。なお、一部の学者は、ヨーロッパ出土の人骨のみをネアンデルタール人とし、他をネアンデルターロイド(類ネアンデルタール人)とよんでいる。