社会脳仮説
社会環境において要求される知性は、自然環境を相手にするとき以上に高度なものになると予測される この考えに基づけば、社会心理学において明らかにされてきた人間の社会的行動や、その背後にあると推測された種々の心の機能は、社会的環境における適応(生存率や繁殖率の増加)を高めるために自然選択されたものと解釈できるはず 社会脳仮説は、脳神経科学にも大きな影響を与えている 霊長類の脳が他の哺乳類よりも大きくなったのは、とくに新皮質の発達によるもの
脳の中でも進化的にもっとも新しい、もっとも外側の部位で、厚さはわずかに3ミリ程度の薄い層だが、深いしわになって古い脳を覆っている
ダンバーは新皮質と脳の残りの部分の比率を霊長類の生活のさまざまな変数と比較した
その結果、唯一、新皮質の大きさと相関が見られたのが群れの大きさだった
果実食であるかどうか、行動圏が広いかどうかなどは無関係だった
大きな群れで生活するほど新皮質の比率が拡大する傾向が見られた
もともと固定的なメンバーで恒常的な群れを作るようになった生態学的原因はほかにあるが、いったんそのような群れで生活することが始まると、互いの競争と協調の関係が複雑になり、処理するべき社会的な情報が加速度的に多くなり、それが脳の発達を促したという考え
霊長類の中でも真猿類は、昼行性でからだが比較的大きく、群れを作って暮らしている 霊長類の群れは、恒常的に同じメンバーが一緒に暮らす集団
固定的なメンバーがつねにいっしょに暮らすような集団ができると、そのような集団どうしの間の競争と、集団内部の個体間の競争とが生じる
個体にとっての社会環境は非常に複雑になり、個体どうしの利害の一致も不一致も、様々な場面で生じてくる
群れ生活をする霊長類は、誰もが他のメンバーを個体識別しており、個体間に社会的な順位がある
親子関係、親密度、順位などの社会的情報をかなり細かく持っている
個体同士の連合や駆け引きが可能になり、ますます社会は複雑になる