第6章 漸進説とは何か
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種は一気に変化する?
進化の漸進説
ダーウィンが考えた、連続的にゆっくりと進む進化
これまでの章ではダーウィンの主張は進化説、自然選択説、分岐進化説の3つにまとめられると述べてきた
漸進説は入っていない
ダーウィンより少し前にジョルジュ・キュビエ(1769~1832)といフランス人の博物学者がいた
キュビエは化石を調べることによって、時代ごとに生物が異なる事に気づいていた
しかし、生物が進化したとは考えなかった
地層を観察すると陸成層のすぐ上に海成層が載っていることがある
境界がはっきりしていることから、海水が一気に侵入してきて、急激に陸と海が入れ替わったのだとキュビエは考えた
激変説
生物が変化する原因は絶滅と移住
キュビエの時代には進化論者としてラマルクがいたが、キュビエの影響力のほうが大きかった
当時、ナポレオン一世のエジプト遠征によって、古代エジプトの墓から多数の動物ミイラがフランスに持ち込まれた
どのミイラ化した動物も現在生きている動物と同じ形をしていた
これは進化を否定する証拠と考えられた
キュビエの主張は「生物は天変地異によって入れ替わることはある。しかし、生物自体は完成されたものであって、進化はしない」というもの
それからしばらくして、ダーウィンが『種の起源』を出版すると、進化説は社会に広まり、ダーウィンは有名人になった
すると、自然選択説に対する批判も増え始めた
ダーウィンに最も大きな影響を与えたのが、セントジョージ・ジャクソン・マイヴァート(1827~1900)の『種の誕生』(1871)
マイヴァートの批判はそれなりに筋の通ったものだった
ダーウィンは翌年の『種の起源』第6版に批判に応えるために1章を追加した
例えば、半分でできた翼が何の役に立つのか、という批判
完成された翼は空を飛ぶのに役立つだろう
翼が進化し始めた頃のただの出っ張りのような構造では飛ぶことはできない
こんなものに自然選択が働いても、翼には進化しない
マイヴァートは新しい種は突然現れると考えた
翼が進化するには、骨や筋肉などいくつもの構造が変化しなければならない
それらの構造の変化は、生物の内部にソニアする、まだ解明されていない力によって、一気に同時に起きるという
キュビエとマイヴァートの考え方はまったく違う
種が変化する(したように見える)原因
キュビエ: 絶滅と移住
マイヴァート: 生物内部に存在する力
しかし、種が「一気に大きく」変化する(したように見える)という点については共通している
このような極端な考えが広まっていたので、ダーウィンは自然選択説を強調するために、少し漸進説を強調しすぎたのではないかと思う
なぜダーウィンは漸進説を唱えたのか
ダーウィンは自然選択が働くためには、同種の個体の間に変異がなくてはならないと、正しく認識していた
ダーウィンは飼育栽培されている生物より自然界の生物の方が、変異が少ししか生じないと考えていた
これは間違い
ダーウィンは自然界における自然選択は力が弱く、ゆっくりとしか働かないと考えていたようである
ダーウィンがおそらく本当に言いたかったのは「自然選択は非常にゆっくりと作用する」の後の「しかし長い時間が経てば、大きな変化をもたらす」という部分
自然選択などの進化の過程は、短い人間の一生のあいだに観察することが難しい
その言い訳として、なかなか観察できないことを言いたかったのだろう
ダーウィンは非常に小さな変異にも自然選択は作用するという
仮に身長が高い方が有利なら、たとえ1mmでも身長が高ければ、自然選択は作用するという
自然選択が大きい変異に作用するのは当然だ
ダーウィンはもちろん大きな変異にも作用すると考えていた
漸進説は曖昧な仮説である
メンデルの遺伝の法則
エンドウのさやはAAやAaのときは緑色、aaのときは黄色
遺伝子aからAが進化したとすれば、それは漸進的な進化ではなく、断続的な進化と言ってよさそうだ
マルバアサガオの花の色は、BB赤, Bbピンク, bb白
bからBへ進化したとすれば花の色は白からピンクを経て赤になる
これは漸進的か断続的か、区別は難しい
考えてみれば、完全に連続的な進化的変化というものはありえない
必ず世代と世代の間で、変化は不連続になる
したがって親と子の違いは断続的
断続が小さい場合を漸進的、大きい場合を断続的という程度の問題
さらに面倒なことに、進化が漸進的か断続的かは、タイムスケールにも関係する
このように漸進的、断続的というのは相対的なもの
色々考えてくると、漸進説というものはあまり目くじらを立てて主張するような説ではなっそうだ
漸進説はアクセルしかない自動車
漸進説は他の理論と変に組み合わされると誤った結論が導かれることもある
自然選択は方向性選択と安定化選択の2種類
ダーウィン以前から安定化選択は知られていた
この安定化選択は生物を進化させないので、進化に結びつける人はいなかった
ところがダーウィンとウォレスが方向性選択を発見し、これが生物を進化させる力であること
ダーウィンは安定化選択も方向性選択も両方知っていたことになる
ところがダーウィンは安定化選択を重視しなかった
地球の生物の様々なデザインを作ったのは方向性選択であって安定化選択ではない
生物学における最大の問題であって、生物の奇跡的な形や多様性を生み出したメカニズムを発見したのがダーウィン
たとえ、ダーウィンの進化説が不完全であっても、方向性選択を発見しただけでダーウィンの業績は不滅
しかし、安定化選択を軽視したために、ダーウィンの考えは少しおかしなものになってしまった
有益な変異は方向性選択を引き起こすことが多く、有害な変異は安定化選択を引き起こすことが多い
ダーウィンは有益な変異にばかり注目しすぎた
→第7章 進化が止まるとき