学習する組織
「組織学習論」と「学習する組織論」の2つの流れ
「組織が,変革の必要性を見出し,より一層の成功をもたらすと信ずる変革に着手しうる能力を取得し,発展させること」(Duncan & Weiss, 1979, p.78)をさす。
あるいは,これは「組織がよりよい知識の取得と理解によって行動を改善すること」(Fiol & Lyles, 1985, p.803)と定義される。
組織学習は,組織が有する認知システムと記憶(cognitive systems and memories)によってなされる(Hedberg, 1981, p.6)。こういった認知システムと記憶は組織メンバーによって共有されており,その相互作用によって変転する(Fiol & Lyles, op cit., p.804)。
このような組織学習の概念は,暗黙のうちに「生物としての組織」というアナロジーを含んでいる(高瀬, 1991, p.59)。もっとも組織学習論は,あらゆる点に関して無限定に生物に関する知見を応用するというような非科学的アプローチをとらなかった。組織学習の特性を客観的に分析し,陥穽・逆機能を含めてこれを明らかにすることで,組織学習論はその地位を主張してきたのである。
組織は要素の総和ではなく「体系」として見られなければならない(Barnard, 1938, p.78:邦訳,p.80)
組織のメンバーは組織において他のメンバーと「関連性」を持つ。
このため組織論の一般的立場では,組織は構成要素の算術的総和ではなく,「算術的総和をこえた独自の体系的特質と産出物」(岡本, 1982, p.40)を持っている
学習のエコロジー(レビット=マーチ, 1988; 高瀬, 1991; 高橋, 1998) 彼らによれば,組織内で複数の学習者がコミュニケーションをとり相互作用を持つと,学習に関してある種の相乗効果が生まれる。
これは「複数の学習者が同時に学習することによって波及効果が生じる」(高瀬,1991,60)というような言い方がなされる。すなわち組織として皆で学ぶと,個々人で学習した際には現れない効果が生じ学習内容が変わってくるのである。
「個人が学習したものは,その個人一代で途絶えてしまい,他者に伝承されることはないが,組織が学習したものは,組織内部に流布し,それを媒介して将来の成員にも伝えらていく」(古川,前掲論文,11)。
組織学習は基本的にはルーティン・ベース、歴史依存的に行われる(Levitt & March, 1988, p.319)
ルーティンとは組織の運営に本質的な役割を果たしている規則や手続き,しきたり,戦略,技術をさす。
ただし組織では学習によって,公式的なルーティンと矛盾するような信念やパラダイム,文化,知識が定着することもある(op cit., p.320)
そしてルーティンは将来の予想よりも過去の解釈を基礎にしているから,組織学習は歴史依存的でもある。
すなわちルーティンは経験の結果として変化する。
その変化は歴史の解釈,特に目標の観点でなされる成果(outcomes)に対する評価に依存している。 ここでは要求水準を超えた成果は成功と見なされ,下回る成果は失敗と解釈される。前者は現行のルーティンの強化に働く
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現在使用中のルーティンより有効なルーティンがあるという可能性もある。
しかし現行のルーティンにおける能力が伸張すると,組織に高い成果をもたらすので,組織はますます現行ルーティンの使用を増やす。
このことが,より有効性の高いルーティンを探索したり,優れたルーティンを実践に移してこれに関する経験を積むという意識を弱めてしまう
そもそも現行ルーティンに沿った行動が成功か失敗かという判断には,主観性が働く。要求水準の設定自体が主観的になされるので,成功・失敗は厳密には主観的成功(subjective success),主観的失敗と言うべきものである。要求水準に主観的特質があり,成功と失敗は成果と要求水準の比較によって行われるため,組織が何を学習するかは,行為やその結果だけでなく,要求水準を決めるプロセスにも依存しているのである
組織が存続するためには,旧来の確実なものの活用(exploitation)と新しい可能性の探索(exploration)の両方を継続的に保持することが重要
現行のルーティン,既存知識の活用は短期的な業績向上をもたらすとしても,新しい知識の探索をともなわない単なる活用は長期的には自己破壊的(self-destructive)である (March, 1991, p.71, p.85; Levinthal & March, 1993, p.105)
組織学習の「近視眼」
①長期を見ない,②より広い範囲を見ない,③失敗を見落とすという三つの形態がある(Levinthal & March, op cit., p.101)
組織学習では活用と探索のバランスが重要であるものの,三つの近視眼は組織がこのバランスをとることを困難にする。多くの場合,このような近視眼により,適切な探索を継続することが難しくなる