科学にも不正はある
本書では多くの科学の間違った事例が紹介されています。当然ながらSTAP細胞論文不正も事例として取り上げられています。それ以前のファン・ウソクによるES細胞論文不正もそうですし、TEDでも有名となったエイミー・カディのパワーポージングもそうです。もっと有名なところだとノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンもベストセラー『ファスト&スロー』で主張していたプライミングに関して間違っていたことをのちに認めています。科学者は時には意図的に、時には不注意で間違いを犯します。これらは全てピアレビューなど科学的なプロセスを経て著名なジャーナルに論文が掲載された研究成果です。 研究者は評価されるために論文をジャーナルに掲載したい、ジャーナルはステータスを維持するために肯定的な論文を掲載したい。正確さを担保する数値ゴールはハッキングされてしまう。正確さよりもインセンティブが勝ってしまう。
じゃあ、どうしたらいいの?これもマートンの規範に求めるしかない。スチュワート・リッチーが期待するのが共有性(Communarity)と 無私性(Disinterestedness)です。(略)査読前のプレプリント(引用車注:Preprint server)によって共有性(Communarity)が高まることによってPハッキングもある程度防ぐことができます。 論文は後から検証しやすいが、文章が残らなければ検証もできない
応用よりの科学技術で富を生む場合には、事実をねじ曲げる圧が高くなる
例:企業研究者
「そんなことを告発するなら首だ」と言われて、不正を内部告発できるだろうか? 教育に使われる有名な例は、1986年宇宙ロケットの空中分解事故
スケールが大きすぎて現実感がないとしばしば揶揄される
低温環境下でOリングが固着することを技術者は指摘をしたが、打ち上げが強行され、宇宙飛行士7人が死んだ
NASAの幹部はすでに1977年の段階で、契約先企業であるモートン=サイオコール社が設計したSRBのOリングに致命的な欠陥があることを知っていたが、適切に対処できていなかった。また彼らは、当日朝の異常な低温が射ち上げに及ぼす危険に関する技術者たちからの警告を無視し、またこれらの技術的な懸念を上層部に満足に報告することもできなかった
27日の夜、サイオコール社の技術者と幹部は、ケネディ宇宙センターとマーシャル宇宙飛行センターにいるNASAの幹部と遠隔会議を開き、気象条件に関する討議を行った。何人かの技術者、中でも特に、以前にも同様の懸念を表明したロジャー・ボージョレー(英語版)は、SRBの接合部を密封するゴム製Oリングの弾力性が異常低温によって受ける影響について不安を表明した
サイオコール社の技術者たちは、夜間の低温によりSRBの温度は危険値である4℃をまず間違いなく下回るはずだと指摘した。しかしながら、サイオコール社の幹部は彼らの主張を取り合わず、予定通り打ち上げを進めるよう勧告した
世間ではNASAは常にフェイルセーフに取り組んでいるイメージがあったのに反して、サイオコール社の幹部は、打ち上げが安全「である」と証明するのではなく状況が安全「ではない」ことを示せというNASA幹部の要求に影響されていた。後に事故調査の中で、NASA幹部は打ち上げスケジュールを維持するために安全規定をしばしば無視していた事実が明らかになった。
このような複雑な利害関係かつ自分の意思決定が弱くなる環境の中で、技術者としてどういう行動をとるべきだろうか?
契約という意味では責任の範囲は比較的はっきりしているが、これは倫理の問題である
https://youtu.be/WDRxK6cevqw
彼はテレビ放送された聴聞会の席上、氷のように冷たい温度下でOリングが如何に弾力性を失い密閉性を損なわれるかということを、コップの氷水に試料を浸すことで見事に実証してみせた。
https://youtu.be/ZOzoLdfWyKw
2:47~
彼はNASAの「安全文化」の欠点に対して極めて批判的だったため、シャトルの信頼性に対する彼の個人的な見解を報告書に載せなければ報告書に名前を使わせないと脅し、これは「付録F」として巻末に収録された。ファインマンはその中で、NASAの首脳部から提出された安全性評価ははなはだしく非現実的であり、現場の技術者による評価とは時に1000倍もかけ離れていると論じた。付録Fの末尾をファインマンは次の文で結んでいる。「技術が成功するためには、体面よりも現実が優先されなければならない、何故なら自然は騙しおおせないからだ。」
報告書の巻末「付録F」はネット上に公開されている。
Appendix F - Personal observations on the reliability of the Shuttle
by R. P. Feynman
偽論文と不正な査読を一掃しようとする出版社の懸命な努力により、2023年に撤回が発表された論文の数は1万本を突破し、それまでの年間記録を塗り替えた。Natureの分析から、過去20年間に多くの研究論文を出版している国の中で撤回率が高いのは、サウジアラビア、パキスタン、ロシア、中国であることが明らかになった。
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