日本の財政はどうなっているのか(2015)
https://gyazo.com/6e1541647d62a37502af06f92155af20
湯本雅士
https://www.iwanami.co.jp/book/b262222.html
■著者からのメッセージ
しばしば感ずることであるが,財政の世界はこの青木ヶ原に似ている.
いったんそこに踏み込むと,無数に枝分かれした木々の間をさまよい,ついには自分がどこに立っているのかわからなくなる.
こうした経験は,財政を学ぼうとするほとんどの人が持っているのではなかろうか.
本書には,この樹海に迷い込んで立ち往生している人々のために,何とか出口までたどり着くことができるような道標(みちしるべ)を立てておきたいという気持ちが込められている.
このために,常に全体像を把握した上で自らの位置関係を確かめるというアプローチをとっている.
解像度の粗い地図
その過程では,細かな枝葉は切り捨てざるを得なかったが,全体に響く重要性をもっているものについては極力保存する努力をしたつもりである.
道標を立てていく過程で常に念頭にあった指導原理(guiding principle)は,「財政は所得移転の世界である」,という事実である.
財政は,それを得るのに対価を必要としない公共財を国民に提供し,それを通じて資源の再配分・所得の再分配(引用者注:所得再分配)・景気の安定化を図ることをその任務としているが,その財源はどこにあるのか――「国庫」などという「ドラえもん」が存在しない世界においては,「所得移転」,すなわち,誰かからその所得を取り上げて,それを他の人に移すという作業がどうしても必要である.
この原理を念頭におく限り,複雑怪奇に見える財政問題を理解するのはそれほど難しいことではない.
そのことは,複雑な債権債務関係が折り重なってできている金融の世界に比べると明らかである.
財政が複雑化するのは,国債という金融の世界が財政の世界に入り込んできた時である.
そこでの所得移転は,現世代内だけではなく,次世代をも巻き込んだ問題となる.
これを正当化する根拠は人口予測なのかな?
本書では,国債という財政と金融との接点にとりわけ力を入れたつもりであるが,それはそうした理由による.
目次
第I部 全体像の把握
第1章総論
政府の財政活動はなぜ必要か
財政学の教科書で強調されることは市場の失敗を財政から正そうとする以下の3点
資源配分の調整
市場に任せていては、供給されることがない財やサービスを供給する
純粋公共財
国防、治安、道路
特性
フリーライダーを排除をできない 非排除性
使う人が増えても、他の人がそれを享受するのを妨げられる事は無い 非競合性
準公共材
市場機能による資源配分の余地はある程度あるが、その結果が充分でないもの
教育、医療
貧しいと基礎的な教育や医療サービスを受けることができないが、そういう人を放置しない方が国として良い
経済の安定化
市場に任せておくと、大幅に変動してしまう経済活動をなるべく平準化する
租税収入と財政支出で景気をコントロールする
総需要に働きかけて、それを通じて総生産に働きかけて安定的に経済を発展させる
ケインジアン政策
財政制度に組み込まれた、景気安定化装置
経済が好転すれば、税収が増え定景気の過熱を抑える累進課税制度
不況になると支出が増え、景気を下支えする失業保険
negative feedback基素.icon
所得再分配
市場市場に任せておくと、極端な所得格差が生じる
市場理論は、各経済主体の間には、いかなる違いも存在しないと言う非現実的な前提の上に成り立っているから、こういうことが起きる
実際には違いだらけ
社会不安の源となって、最終的に経済成長を阻害する
道義上の問題
このほかの財政の機能
特定の目的の達成の刺激を与える
税制、優遇補助金
外部性に対応する
大気汚染防止のために環境税を賦課する
中長期的に、国の経済構造を変える
子育て支援を強化して、人口の減少を防ぐ
市場の失敗があるように、政府の失敗も発生する
市場機能のチェックが働かない政府部門の活動は肥大化する傾向がある
歳出の執行過程チェックして、決算段階における検証や審査を厳格に行う事は、このような問題を是正するために必要だが、現状うまくいってない
財政活動の主体
SNAによる整理
国民生活における財政のウエイト
2章 中央政府の財政活動
総括
一般財政
(1) 予算に係る諸原則
(2) 予算の形式
(3) 予算循環
(4) 一般会計
(5) 特別会計
財政投融資
中央政府財政の全体像
第3章 地方政府の財政活動
地方政府の財政構造
地方政府の予算循環
地方公営事業等
第II部 現状と問題点
第4章 租税に関する諸問
課税の根拠
租税原則と課税の対象
主要税目とその帰着
一般財源と特定財源
国税
(1) 所得税
(2) 法人税
(3) 金融収益に関連する税制
(4) 消費税
(5) 相続税・贈与税
地方税
(1) 住民税
(2) 事業税
(3) 地方消費税等
(4) 固定資産税等
租税負担の重さ
第5章 社会保障制度に関する諸問題
総括
公的年金制度
(1) 公的年金制度の構造
(2) 公的年金制度の諸方式と財政検証
(3) 公的年金積立金の運用
(4) 現行公的年金制度の諸問題
医療・介護保険制度
(1) 医療保険制度
(2) 介護保険制度
「税と社会保障の一体改革」
第6章 地方財政に関する諸問題
総括
地方交付税交付金
国庫支出金
地方債
地方財政の健全化
第7章 公債に関する諸問題
公的債務の全容
公債の種類と発行状況
1 国債
2 地方債
国債発行についての基本原則
(1) 建設国債の原則
建設国債
(2) 市中消化の原則
国債の発行・流通市場
(1) 発行市場
(2) 流通市場
(3) 決済のメカニズム
国債の保有状況
国債償還のメカニズム
国債の負担とは
日本銀行の量的・質的金融緩和と国債市場への影響
量的・質的金融緩和(2013)
第8章 財政ポジションの健全化を目指して
長期国債の格付引き下げ
財政ポジションの現状
財政健全化の試み
何をなすべきか
補論1 公共事業の現状と考え方
補論2 ODAの現状と考え方
補論3 財政面から見た外国為替介入と外貨準備
補論4 多国籍企業の租税回避行動
補論5 米国の予算策定過程
おわりに