日本のVCの規模感
朝倉祐介 僕がStartupを経営していた2010年頃は、スタートアップに投資されるお金は今の4分の1程度しかありませんでした。自分たちが不甲斐なかったこともありますけれども、そもそもそこにお金を投じるアセットオーナーがいなかったから、ベンチャーキャピタルも資金を投じることができなかったわけですよね。お金の呼び水になってくれたという点で、アセットオーナーとしての官民ファンドの存在は大きかったですよね。今のちょっとしたスタートアップブームは、明らかにマクロ主導で生まれたと思います。 柴山和久 今のほうが、朝倉さんがスタートアップを経営されていた2010年当時より、スタートアップの資金調達が恵まれた環境にあることはたしかですよね。ただし、Series Aの資金調達はかつてないぐらいうまくいく一方で、ユニコーンを支えられる規模のリスクマネーは、まだ日本にも存在していない。シリコンバレーであればプレIPO(上場前)ラウンドも大型のベンチャーキャピタルが担えますが、日本の場合はその層の投資家がないんですよね。先日、ユニコーンをめざす経営者との合宿をしたときも「山頂に行くほど空気が薄い」という話になりました 朝倉 日本では、独立系のベンチャーキャピタルで「大型ファンド」と呼ばれるところでも運用額100~200億円ですから、ポートフォリオのバランスを考えれば1社に20~30億円は出せませんよね。
米国では、70年代後半に年金基金によるオルタナティヴ投資(上場株式や債券など伝統的資産以外への代替投資)が解禁され、ベンチャーキャピタルに対してもLP(有限責任組合)として出資できるようになったのを契機に、スタートアップに対する投資が一気に拡大 したそうです。日本では今後、どうやってベンチャー投資に世の中のお金を振り向けていくかがポイントだと思います。残念ながら現時点では、アセットクラスとして確立していない。 柴山 ユニコーンをめざそうというとき、日本にリスクマネーがないから、みんなマザーズに上場することになります。
でもマザーズに上場すると、個人投資家の一喜一憂に翻弄される世界に飲み込まれて、先ほどおっしゃったような株主総会の世界が待っている。いくら会社が「中長期的な価値を創造するために、今は赤字でもリスクを取るんです」と説明してもなかなか聞きいれてもらえないので、彼らに合わせて、目先の売上・利益を優先する「PL脳」にならざるを得ない。結果として、日米で比較すると、日本のほうが上場企業の数は多いけど、時価総額の規模はアメリカより小さい。新しい産業をつくるには、アグレッシブな海外のリスクマネーを引っ張ってくるしかない、という状況になってしまっています。前回の東京オリンピックに合わせて東海道新幹線をつくるために、日本は世界銀行に借款しましたが、まさにあれと同じです。 投資家のリスク観
柴山 リスクマネーの中でも、それぞれ異なるレベルのリスクを求めていますしね。ざっくり言うと、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストは高リスク、マザーズ投資家層は中リスク、東証一部企業を支える投資家層はかなり低リスクを求めていて、それよりさらに低リスクを求めるのが個人投資家でしょう。だから、スタートアップの側も、リスクマネーの中で事業の成長ステージに合うところを探して、きちんとコミュニケーションをしにいくことが大事かなと思います。
マクロの影響
柴山 (略)海外の機関投資家はマクロの影響に左右されて売り買いする傾向が強いので、たとえばポートフォリオのベースとなる指数で日本への配分が6%から5.9%に下げると、その瞬間に日経平均(注:日経平均株価)は大きく下がる構造です。 朝倉 そうですよね。つまりいい事業を生み出すか生み出さないかというのと、まったく違うロジックで売られてしまう。期待値も超えているはずなのになぜ売られるんだ、と経営者なら思うはずです。
柴山 アジア通貨危機で突然外国の資金が引き揚げて、アジアの新興国が悲哀を味わったのと同じ構図ですよね。あるいはリーマン・ショックのとき、金融システムが一番安定しているはずの日本で株価が大きく下がり、経済にもダメージを受けて、回復も遅かったのも、背景にある構図は同じです。