同一性保持権
勝手に著作物を書き換えられない権利
福井健策の解説
要するに「私の作品を無断で改変するな!」と言える権利です
作品はクリエイターの分身のようなもので、それによって作家は社会的に評価されますね。作品に勝手に手を入れて発表されたりすると、心情だけでなくキャリアとして困るケースもあるでしょう。ですから、複製といった著作権(財産権)的な問題があるなしに関わらず、「著作者の意に反するような改変は人格権侵害だよ」とされているのです。
これは結構厳しくて、たとえば判例では、懸賞論文の送り仮名や改行を無断で直したりしても、侵害にあたるとされたくらいです。そう聞いてビックリする編集者もいるかもしれませんね。「行数の調整や表記の統一くらいはできないと困るよ!」と。たしかに、日本の著作者人格権は、国際的に見ても規定ぶりは厳しい方です。なにせ侵害の刑事罰は最高で懲役5年です。表記を直した程度で違法になり、(理論上は)刑事罰もあるというのはちょっと行き過ぎかなと筆者も思います。そのため、「同一性保持権をもう少しゆるやかに解釈しよう」とする意見も有力になってきています。
よく著作権分野の弁護士や学生と飲み会をしていて出る冗談で、「○○さんのカラオケは人格権侵害。△△さんは無罪」と言うのがあります。
音痴だとメロディを勝手に改変しているから同一性保持権の侵害だけど、もっとひどいとそもそも別な曲になっちゃってるから侵害ではなくなる、という意味ですね。
理論家のこの解説と温度差がある
@OKMRKJ: 最高裁判決平成10年7月17日判時1651号56頁は「著作権法20条に規定する著作者が著作物の同一性を保持する権利(以下「同一性保持権」という。)を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである」と説示している。 @OKMRKJ: 補足しておくと、上記を逆に理解して、表現上の本質特徴を感得できるような改変があれば直ちに同一性保持権侵害と解するのは間違い。 まず、表現上の本質特徴を感得できるような改変が、意に反するものかを検討し、それがYesなら更に、著作権法20条2項1号から4号に該当しないかを検討する必要がある。
権利制限規定
次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
なお、「感得」とは(他の著作権に関する多数の裁判例に照らしても)人間が感じ取ることを意味しているところ、30条の4が適用される機械学習の場合、学習対象著作物の表現上の本質的特徴(表現そのものも)が人間によって知覚されないので、感得は起こり得ない。
結果、30条の4が適用される機械学習の過程で、学習対象著作物に何らかの改変が加えられても、それは、同一性保持権侵害となるものではない。
・・・もちろん、ピンポイントに機械学習との関係について裁判例があるわけではないので、私見です。念のため。
日常的にある
JASRACなどの管理団体が管理して許可が取れるので、原曲に忠実な分にはコンサートで歌ったりCDに収録するには本人の直接許可が不要 アレンジも一般的に行われている。完全一致のカバーの方が珍しい
アレンジが編曲権侵害として訴訟されたケース
現場は?
音楽出版社はカバーに寛容
著作権収入は入る
ポップスでは問題にならない
作曲家とアレンジャーが別れがち
アレンジは変わって当然という考え方
純粋音楽は問題になりがち
作曲家が編成含めて全部作るのでアレンジされると困ると感じやすい
ジャンルごとの事情や相手の事情を加味しながらやっている
(1)事前の確認をすることなく、ライブ配信やSNS等において二次創作作品を公開、配信、紹介その他の方法で利用すること(なお、作品の同一性を損なわない程度にトリミング、デフォルメ等を施すこともあります。)