2026-06-20
AIをシバき続けることで爆速で開発が進むが、トークンがなくなる。金はすべてを解決する......。
労働経済学は経済学のサブフィールドの中で最も科学的で証拠重視の分野だとクルーグマンは持ち上げる。UマスのArindrajit Dube(以下Dube)が新著『The Wage Standard』を出した、という触れ込みで対談がスタート。 労働市場は教科書の需給モデルより遥かに複雑(Dube)。同種の仕事でもFedExとUPS、WalmartとTargetで賃金に大差がある。これは「モノプソニー(買手独占的労働市場)」の話で、企業は市場賃金より少し安く払っても全員が辞めるわけじゃない。つまり企業には賃金設定の「裁量の余地」がある。
MBAが悪い(Dube、クルーグマンも同意)。Acemogluらの研究によれば、初めてMBA保有CEOに交代した企業では、生産性は変わらないのに労働者の賃金が約6〜9%下がり、資本家・高給マネージャーへの収入移転が起きた。株主至上主義イデオロギーが「スキル」ではなく「思想」として賃金を下げた。 「大圧縮(Great Compression)」と戦後の黄金期(Dube)。ニューディール・第二次大戦期に労組が爆発的に拡大し、UAWと自動車大手の「デトロイト協定」が賃金を生産性に連動させる仕組みを作った。その後1980年以降、レーガンが最低賃金を凍結し、組合は弱体化、賃金は生産性から乖離し続けた。
最低賃金引き上げは雇用を大して殺さない(Dube)。Card & Kruegerのニュージャージー対ペンシルバニア研究が嚆矢で、その後Dubeらも「多数・多年次」の州別データで同様の結果を確認。カリフォルニアのファストフード$20最低賃金でも、賃金上昇と離職率低下は観測されたが雇用への影響はほぼゼロ。連邦最低賃金が17年間据え置きで「$7.25はほぼ最低賃金なし」状態の20州と「引き上げた」20州の比較は自然実験として非常にクリーンで、雇用の差は見当たらない。 きつい労働市場こそが底辺層の賃金を上げる唯一の現実的手段(Dube)。1980〜2019年に低賃金層の実質賃金がほぼゼロ成長だったが、その全てがほぼ完全雇用だった「7年間」(1990年代末・2010年代末)に集中。コロナ後の逼迫労働市場でも「予期せぬ圧縮(Unexpected Compression)」が起き、1980〜2019年に広がった賃金格差の1/4〜1/3を数年で取り戻した。 セクター別交渉こそ次の一手(Dube)。フランスは組合員率10%でも団体協約カバー率98%。これは企業別交渉ではなく産業別・全国水準交渉のおかげ。米国では国レベルでの労働法改正は困難だが、州レベルで産業別賃金フロアを設定することは可能で、すでにミネソタ(介護)・カリフォルニア(医療)・ワシントン州(保育)が動き始めている。オーストラリアモデル(政府主導の職種別賃金フロア)が参考になる。
AIについてはわからない(Dube)。一番ありそうなのは「緩やかな生産性向上」で、格差への影響は結局その他の政策・制度次第。バブル崩壊リスクもある。スウェーデンでは労使交渉でAI導入について協議する契約言語があり、そういった「ガバナンスの選択」が重要だと強調。「テクノロジーは自然現象ではなく、私たちが選択できるもの」が結論。
現在の賃金状況は悪化中(Dube)。コロナ後の圧縮の多くは維持されているが、ここ1年半で底辺層の賃金上昇が鈍化。さらにトランプ政権発足以来、関税起因のインフレで実質賃金の上昇分はほぼ消えた。これは「政策の失敗によるself-inflicted supply shock」と断じている。