有明海乾海苔
「乾海苔」は「かんのり」と読む旨のルビが、公取委の発表資料にある。
(他の地方の業者が、ネット上で、「乾海苔」は「ほしのり」と読む旨の説明をしている例がある。)
「有明海苔」「有明のり」は、いずれも、特定の者が固有のものとして用いている可能性がある。「有明海苔株式会社」「株式会社有明海苔」「福岡有明のり」など。
調査中の審査官の言動について損害賠償請求を熊本地裁・佐賀地裁に提起した旨の報道がある。
令和6年7月24日 証拠閲覧仮の義務付け申立て 福岡地決
令和6年5月15日 排除措置命令
熊本
公取委命令令和6年5月15日・令和6年(措)第4号〔熊本県漁連〕
佐賀
公取委命令令和6年5月15日・令和6年(措)第5号〔佐賀有明漁協〕
■■ここからセミナー資料■■
福岡については確約認定(令和5年6月27日)
乾海苔について、漁連(漁協)が組合員(「海苔生産者」)を拘束し系統外流通業者(商社)を排除、というストーリー
一般指定12項
(拘束条件付取引)
12 法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。
これに該当すると、独禁法2条9項6号に該当し、「不公正な取引方法」ということになる。
一般指定12項では、「不当に」=「公正競争阻害性」
事案により、競争停止が起きる場合と他者排除が起きる場合がある。
本件では、
行為
熊本は(1)〜(5)の行為(5〜9頁)、佐賀は(1)〜(4)の行為(5〜8頁)
(1)(2)が海苔生産者に対する禁止、(3)以下が(1)(2)の「実効性を高めるもの」
弊害
排除効果(市場閉鎖効果)に相当する認定をしようとしている
「事実上、所属する漁協から区画漁業権の行使を認めてもらう必要がある。」(3頁)
海苔生産者にとって全てを系統外にすることは困難(4頁)
「uncontestableな部分」と「contestableな部分」
(商社にとって)有明海沿岸の乾海苔を「他に代えることが困難な場合が多い。」(5頁)
実際の影響エピソード(熊本10頁、佐賀8〜9頁)
排除効果は、一般的抽象的な危険性で足り、現実の影響は必要ないと解釈されているが、現実の影響があれば、一般的抽象的な危険性があることを示す間接事実となる。
どの市場での弊害か
検討対象市場=「公正競争阻害性にいう「競争」が行われる場」
公取委は、「一定の取引分野」という文言がないことを根拠に、明確にしない。
裁判所で争われたら論ずる。
乾海苔を売る競争ではなく、海苔生産者から乾海苔を買う競争を考えているのではないか
そうすれば、全国の産地との競争を考えずに済む。
公正競争阻害性の有無の判断について,消費地の卸売市場に出荷された高知県産のなすの産地間競争の状況を検討する必要があるとしても,土佐あき農協が組合員に対してなすの販売受託取引について拘束条件を課すことで,商系三者が土佐あき農協管内及びその周辺でなすを集荷することが困難になるということであれば,集荷から先の取引段階に進むことは困難になることは明らかであるから,本件行為においては,なすの販売受託取引を市場として公正な競争秩序に悪影響を及ぼすかどうかを検討することが必要となるのである。
排除措置命令差止請求などの裁判について
行政事件訴訟法37条の4
「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある」の要件を満たさないとして退けている。
退けるに当たり、排除措置命令が違反の自認を求めないことを主要な理由としている。
行為でなく弊害が争われている場合
行為をやめることが容易であるとき
行為をやめることがビジネスモデルの否定であるとき
行為があれば実際上は違反とされることが多い場合(カルテルなど)
景品表示法の措置命令は、違反の自認を求めている。
■■(セミナー資料ここまで)■■
令和6年5月10日 留置物仮還付 仮の義務付け申立て 福岡地決
熊本
福岡地決令和6年5月10日・令和6年(行ク)第11号〔熊本県漁連留置物還付仮の義務付け申立てⅡ〕
令和6年5月9日 排除措置命令差止請求 東京地判
熊本
東京地判令和6年5月9日・令和5年(行ウ)第5011号〔熊本県漁連排除措置命令差止請求〕
佐賀
東京地判令和6年5月9日・令和5年(行ウ)第5012号〔佐賀有明漁協排除措置命令差止請求〕
令和6年3月13日 留置物仮還付 仮の義務付け申立て 福岡地決
熊本
福岡地決令和6年3月13日・令和6年(行ク)第2号〔熊本県漁連留置物還付仮の義務付け申立てⅠ〕
佐賀
福岡地決令和6年3月13日・令和6年(行ク)第3号〔佐賀有明漁協留置物還付仮の義務付け申立て〕
令和6年1月9日 排除措置命令の仮の差止め申立て 東京地決
熊本
東京地決令和6年1月9日・令和5年(行ク)第5003号〔熊本県漁連排除措置命令仮の差止め申立て〕
佐賀
東京地決令和6年1月9日・令和5年(行ク)第5004号〔佐賀有明漁協排除措置命令仮の差止め申立て〕
令和5年12月14日 熊本・佐賀 排除措置命令差止請求の報道
NHK熊本・佐賀
「熊本県漁業協同組合連合会」と「佐賀県有明海漁業協同組合」……2つの漁業団体は14日、命令の差し止めを求めて裁判所に仮処分を申し立てました。
産経
これまでの取材に、佐賀の担当者は、2021年に組合員が書く誓約書の文言を「全量出荷します」から「努力します」に修正したと説明。熊本の担当者は「独禁法に違反する行為はしていない」と話している。
令和5年11月29日 熊本・佐賀 意見聴取通知の報道
時事
公正取引委員会が佐賀県有明海漁協(佐賀市)と熊本県漁連(熊本市)に排除措置命令を出す方針を固めたことが29日、関係者への取材で分かった。
令和5年11月22日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
令和5年10月30日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
令和5年10月3日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
令和5年9月20日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
令和5年4月7日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
令和5年3月7日 審査官の処分に対する異議申立てに関する決定
時系列が前後するが、福岡は以下に。
令和5年6月27日 福岡 確約認定
公取委確約認定令和5年6月27日〔福岡有明海漁業協同組合連合会〕
福岡有明漁連の後記2の行為が独占禁止法第19条(不公正な取引方法第11項(排他条件付取引)又は同第12項(拘束条件付取引))の規定に違反する疑い
「後記2の行為」
(1) 漁協を通じて、生産者に対し、生産した乾海苔の全量を生産者が所属する漁協に出荷する旨の条件を定めた誓約書に記名押印させるとともに、当該誓約書に定めた条件を遵守するよう要請している。
shiraishi.icon一般指定12項であろう。あくまで漁協を拘束したというのでなければ一般指定12項に該当しないが、ともあれ、生産者が自らの競争者とならないようにする行為。
(2) 漁協に対し、生産者から集荷した乾海苔の全量を自らに出荷する旨の条件を覚書として定めるとともに、当該覚書に定めた条件を遵守するよう要請している。
shiraishi.icon一般指定12項であろう。漁協が自らの競争者とならないようにする行為。
(3) 指定商社に対し、自らが実施する入札に付した乾海苔以外に、生産者が生産した乾海苔の買付けを行わない旨の条件を、自らが構成員となっている九州地区漁連乾海苔共販協議会(以下「九州共販協議会」という。) (注6) において書面により定めるとともに、書面に定めた条件を遵守するよう要請している。
shiraishi.iconこれは一般指定11項にも該当し得るであろう。相手方が自らの競争者と取引しないようにする行為。
(4) 自らが構成員となっている九州共販協議会において、自らが実施する入札に付したものの、最も高い入札価格が基準価格 (注7)に満たなかった乾海苔(以下「札無品」という。)について、当該乾海苔を生産した生産者の意向を確認することなく、当該乾海苔を処分することとしている。
shiraishi.icon(1)の穴を塞いで補強する行為、ということになるであろうか。
shiraishi.icon全体として、本来は、合わせ技一本(一般指定14項または排除型私的独占)というのが、法律構成としては、総合的であるように思われる。
令和4年6月7日 報道
NHK
立ち入り検査を受けたのは、熊本市にある「熊本県漁業協同組合連合会」、福岡県柳川市にある「福岡有明海漁業協同組合連合会」、佐賀市にある「佐賀県有明海漁業協同組合」などおよそ10か所です。
関係者によりますと、各地の漁連や漁協は有明海ののりの生産者に対して商品を個人で販売することを認めず、すべて漁連などを通す「全量出荷」を義務づけているということで、独占禁止法違反の不公正な取引の疑いが持たれています。