『百人一首』(角川ソフィア文庫)
ISBN:404404001X
本書は雪月花の日本美の典型「百人一首」を、最古の歌仙絵と共に伝素庵筆古刊本により学問的に再現し、現代語訳・鑑賞・出典参考・作者伝、さらには詳細な解説と、清新にして抒情的な構成を試みた。 藤原定家撰という立場から現代語訳・鑑賞も施している点が重要 執筆当時(昭和44年)では原作者の詠作意図の方に鑑賞の重点が置かれていたらしい
二句・四句に差異がある
「夏来にけらし」と語調をやわらげたのでは、眼前に交代する季節感がぼやけて「春すぎて」の感動が消え、「ころもほすてふ」では眼前の実景ではなく下へ続く形となって、四句切の筒勤な調子に及ばないと評価されることが多い。
が、「ころもほすてふ」と読むことで伝聞のクッションが挟まっている
直接見る、眼前の実景を詠むことから、伝承を踏まえた歌へと享受・鑑賞のありかたが変化している
もとより原歌の生命を損じ、失ったものも少なくなかろうけれども、観点を変えれば、得たものは優にそれを上回っている。(P12)
萬葉から古今、新古今へとつづく和歌史の流れは、一貫して、「夢てふもの」とうたいうるこころ、「衣ほすてふ」とうたいうる想像力をみずからのものとしてゆく発展の歴史だったと思う。(P13)