週末みんなで鳴門の道の駅行かん?
事務所に遥が入ってくるのが見えると、静は立ち上がって嬉しそうに手を振った。
集配を終えてくたくたの遥が、手を挙げて笑顔で答える。
遥はどんなに疲れていても、それをあまり表には出さなかった。
「おいおい、俺には?俺もおんのやぞ?」
遥の後に続いて事務所に入ってきた和が、不満げな声を漏らす。
「神田橋さんもおかえりなさい」
静は和にも笑顔でそう言った。
「ただいま!」
和は遥の真似をして手を上げた。
「なあエビちゃん、和とも話しよったんやけど、週末みんなで鳴門の道の駅行かん?」 遥がそう声をかけると、静は嬉しそうに笑った。
「僕もええんですか?」
「うん、あと東雲さんも誘うし。和がどうしても東雲さんを誘いたいって言うけん」
ニコニコしながら言う遥の腹に、和がグーパンを食らわせた。 和のパンチに耐えられるくらいなので、遥も割といい体をしている。
「どしたん、僕も誘てくれるん」
受話器を置いた円が、いつものような甘ったるい低音で和に訊ねた。
「あっはい!俺が東雲さんと行きたいっていうか、おっさん仲間がおったほうが伊勢原さんもええかなって!」
「おっさんはひどいわ」
笑いながらそう言う静を、和が顔を赤くしながらにらみつけた。
「まあまあ、神田橋さんから見たら僕なんかおっさんやけん」
大げさにため息をつく円を見て、和がわたわたと慌てた。
和の言葉を聞きながら、静はクスクスと楽しそうに笑った。
「神田橋さんはホンマに東雲さんが好きなんやね」
「うわぁー!エビおまえ!!!」
静に核心に触れられて、和は赤面して大声を出した。
和の声がバカでかいのは毎度のことだったので、誰も振り向かなかった。
「はい、うるさいよぉ神田橋さん」
円にすら適当にあしらわれて、和は恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
和と円のやり取りに苦笑いしながら遥が言って、集めてきた伝票を静に渡した。
「楽しみにしてます」
静は少し頬を赤くして、狐のような目を細めて笑った。 遥はその笑顔を見るのが好きだった。