僕は、エビちゃんの笑顔を見るんが好きや
夕方、僕が事務所に入ってくるんに気が付いたエビちゃんが、立ち上がって手を振ってくれた。
エビちゃんはいつも、ほうやってお出迎えしてくれるんよな。ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいよ。
ほなけん僕もいつも、手を挙げて笑顔で返すようにしよう。
不思議なことに、エビちゃんの笑顔を見たら結構元気になるんよな。
「おいおい、俺には?俺もおんのやぞ?」
僕の後に続いて事務所に入ってきた和が、不満げな声で言うた。
まったく和は、なにかというたらエビちゃんにつっかかるというか、絡んでいこうとするなぁ。
同い年やけん仲良うにしたいだけなんやろうけど、エビちゃんが怖がらんか心配になるよ。
「神田橋さんもおかえりなさい」
僕の心配もよそに、エビちゃんは和にも笑顔でほう言うてくれた。
「ただいま!」
和は僕の真似をして、笑顔で手を挙げて返した。
「なあエビちゃん、和とも話しよったんやけど、週末みんなで鳴門の道の駅行かん?」 実はさっき和と会うて、こっち来るまでほの話をしよったんよね。
和がどうしても行きたいって言うけん、まあ僕もまだ行ったことなかったけん、ちょうどええかなって、ほんな感じ。
「僕もええんですか?」
エビちゃんは嬉しそうにほう言うた。
「うん、あと東雲さんも誘うし。和がどうしても東雲さんを誘いたいって言うけん」
ほれなんよなぁ、和のお目当ては。
で、僕が楽しそうにほう言うたると決まって腹に全力のグーパンを食らわせてくるんよなぁ。 エビちゃんが思わず目をつぶるけど、僕は全然大丈夫よ?和のパンチで倒れるほどやわな体してないけん。
「どしたん、僕も誘てくれるん」
受話器を置いた東雲さんが、相変わらずの甘ったるい低音で和に訊ねた。この人もわかっとってほういう声出すけんなぁ。
「あっはい!俺が東雲さんと行きたいっていうか、おっさん仲間がおったほうが伊勢原さんもええかなって!」
「おっさんはひどいわ」
慌てた和に対して、エビちゃんが笑いながらほう言うた。しっかりツッコんでいくタイプなんやな。
エビちゃん、和とはうまいことやれそうな予感がするわ。
和はというと、顔を赤くしながらエビちゃんをにらみつけとった。ほんな顔をしたら美人が台無しなんやって。
「まあまあ、神田橋さんから見たら僕なんかおっさんやけん」
大げさにため息をつく東雲さんを見て、和は大慌てやった。
和の言葉を聞きながら、エビちゃんはクスクスと笑うた。何が大人の男や、まったく。
「神田橋さんはホンマに東雲さんが好きなんやね」
「うわぁー!エビおまえ!!!」
さらっと核心に触れたな。
和は真っ赤になって、大声を出した。和の声がデカいんはいつものことやけん、誰も振り向きもせんかった。
「はい、うるさいよぉ神田橋さん」
東雲さんにすら適当にあしらわれて、和は恥ずかしそうに顔を両手で覆った。
僕は和と東雲さんのやり取りに苦笑いしながら、エビちゃんに伝票を渡した。
「楽しみにしてます」
エビちゃんは少し頬を赤くして、狐みたいな目を細くして笑うた。
エビちゃんの言葉が正直なんは、顔を見よったらわかるよ。ホンマに楽しみにしよってくれるんやね。
僕は、エビちゃんの笑顔を見るんが好きや。嘘のつけん、正直な笑顔は見よって気持ちがええよ。