円が永遠を望むなら、永遠に
円のマンションに向かう途中、ちょっとした思い付きで小さな花屋に入って、赤いバラを一輪買うた。
気品のあるたたずまいが、円に似とうと思った。
インターホンを鳴らすと、いつもみたいに円がドアを開けてくれた。
僕は笑顔でバラの花を差し出した。
「いつも寂しい思いさせて、ごめんよ」
僕は円の頬に触れた。円は泣いとった。
円は頬に当てた僕の手に自分の手を重ねて、笑おうとしとった。それが余計につらかった。
明日は日曜日なけん、泊っていってほしいと円が言うた。僕はそのつもりやとうなずいた。
僕達はシャワーを浴びて、パジャマに着替えて、退屈なテレビ番組を見ながら焼酎を飲んだ。 「ええよ」
円は僕にもたれかかると、遥、遥と甘えた声で何度も僕の名前を呼んだ。 今までほうやって僕の名前を呼びたあてしゃあなかったんかなと思うと、円がいじらしいてたまらんかった。
「一輪のバラの花言葉、知っとって買うてきたん?」
円は僕の肩に頭を置いて、上目遣いに僕を見てほう訊ねた。アルコールの混じった熱い吐息が僕の顔にかかった。
「うん」
この小さな世界では、僕には円しかおらん。あなただけ。ほれが一輪のバラの花言葉。
「向こう行こ」
とろんとした目つきで僕を見つめる円を、僕は寝室まで連れていった。
ベッドの上で、僕はキスをしながら円のパジャマを脱がせた。
少し指が触れただけで、円は敏感に反応した。
彫刻みたいに整った体は、いつ見ても見とれてまうよ。海に行ったときは女の子達の視線を独り占めしよったよな。男ですら二度見するくらいやった。
「円、きれいやな」
語彙力不足な僕のありきたりな言葉に、円は頬を紅潮させた。
僕は自分のパジャマを脱ぎ捨てると、円を押し倒して馬乗りになって、もう一度キスをした。
円の長い舌が、僕の舌に絡みついた。円はキスが上手かった。僕が酔いつぶれたあの日も、こんなキスをしたんかな。 「女になったことは?」
僕が訊ねると、円は楽しそうに笑うた。
円の言葉を聞いて僕は声を出して笑ってしもた。野暮な質問やったな。
「ほなけど久しぶりやけん、優しくしてな」
僕を見つめる円の瞳は、興奮しとうせいで瞳孔が大きく開いとった。
「うん」
僕はうなずいて、円の白い肌に指を這わせた。
僕達はじゃれ合うて、何度もキスをして、朝まで激しく互いを求め合うた。
この部屋が防音でなかったら、通報されとったんとちゃうかな。
最後には僕の腰が立たんようになって、円は舌を出して失神しとった。 僕の隣で、円は小さな寝息を立てて眠っとった。僕はその胸を優しくなでた。
目を覚ました円と目が合うて、僕達は微笑み合うた。
「愛しとう」
僕は朝が来るまで何度もささやいたセリフを繰り返した。
「遥はいつまでこうして僕を愛してくれるん?」
円は僕が胸に当てた手に自分の手を重ねて言うた。穏やかな顔をしとった。
円はきっと、僕の言葉を信じとらんかった。僕の愛を、期限付きの偽物やと思とった。
「円が望むなら、いつまでも」
僕はゆっくり瞬きして微笑んだ。
円の言葉を聞いて、僕は小さく何度かうなずいた。
探すよ、円が望む永遠を叶える方法を。
涙を流す僕を、不思議そうな顔で円が見とった。
僕が服を着替えて帰り支度を始めると、円は「また明日」と繰り返して笑うた。
無理して笑とんが見え見えで、余計につらかった。