伊勢原さん、愛してます
その日僕は、伊勢原さんが返ってくるんを待ち伏せしとった。
伊勢原さんが一人になるんを見計らって、僕は、手を握った。
強く握った。
顔は上げられへんかった。
伊勢原さんの顔を見れんかった。
僕の顔を見せたくなかった。
拒絶されるんが怖かった。
伊勢原さんはそう言うてくれた。
顔は見えんかったけど、優しい声やった。
僕は、伊勢原さんの手を握ったままうなずいた。
インターホンが鳴って、ドアを開けると、少し疲れた顔をした伊勢原さんが立っとった。
疲れとうとこ、無理ゆうてすんません……。
僕はせめて伊勢原さんにゆっくりしてもらおうと思うて、部屋着に着替えてもろた。
僕達は背格好が似とうけん、服のサイズもぴったりやった。
僕がパスタを作ると言うと、伊勢原さんは手伝ってくれた。 伊勢原さんは料理がうまいけん、包丁さばきもかっこようて見とれてしもた。
二人でパスタを食べながら、うちにある一番ええワインを開けた。 伊勢原さんと飲むええ酒は格別や。昔はよう二人で飲みに行ったな。楽しかったな……。
食事の後で僕は伊勢原さんをベッドルームに連れて行った。
伊勢原さんは緊張しとうみたいやった。
ほれはほうよな、僕やって自分が何をしたんかくらいはわかっとう。
ほなけどどうしても、僕は今日、伊勢原さんにこの部屋に入ってほしかったんや。
僕は伊勢原さんにベッドに座ってもらうと、明かりを消して電飾のスイッチを入れた。 僕はほう言うて、伊勢原さんの隣に座った。
涙があふれて、止まらへんかった。
去年のクリスマスに4人で見に行ったイルミネーション、ホンマにきれいやった。楽しかった。 今年、伊勢原さんはエビちゃんと二人で見に行ったんやろな。
それからきっと二人でディナーを食べて、手をつないで眠って、朝を迎えたんやろな。 僕も行きたかったんや。伊勢原さんと一緒に。イルミネーション、見たかったんや。
おいしいもん食べて、ええ酒飲んで、手をつないで眠りたかったんや。
「僕は、これでええんです。満足です」
嘘や。こんな安っぽい電飾で、満足なわけないやん。
僕が見たかったんは、広い公園一面のイルミネーションよ。
ほなけど嘘つかな、伊勢原さんが困るけん。伊勢原さんを困らせたくないけん。
笑ってみせたかったけど、無理やった。笑いながら泣いてしもた。
伊勢原さんは僕を抱き寄せた。
ほんなに優しくされたら、余計につらいよ。
伊勢原さんも泣いとった。僕のせいで。僕なんかのために。
僕はつらくて、子供みたいに泣いた。
伊勢原さん、愛してます。ごめんなさい。
電飾に照らされた部屋で、伊勢原さんは僕と手をつないで眠ってくれた。
僕は夜が明けへんことを祈り続けた。