伊勢原さん、あったかいな
エビちゃんはずっと泣きじゃくっとった。
「ごめんよ、怖がらせたな」
僕はエビちゃんに謝った。ホンマに悪いことをしたと思うた。
「エビちゃんをバカにされたんがどうしても許せんかって……ごめん」
僕が言うと、エビちゃんは僕に抱きついてきた。
びっくりしたけど、僕はなんもできんかった上にもっと怖がらせてしもたんやけん、受け止めないかんと思った。
「ごめんなさい」
エビちゃんは何度もほうしたように、僕に謝った。
「エビちゃんは悪うないよ、僕が大人げなかったんが一番いかんよ」
両手を余らせとくんもなんか居心地が悪うて、僕はエビちゃんの背中に手を当てた。
エビちゃんは小さく震えとった。
こういうとき、エビちゃんみたいな子にどうやって接したらええんか全然わからんかった。
病気やって言うとったけど、どんな病気かは教えてもうてないし、今僕にできることってなんかあるんやろか。
「ほうや、エビちゃん薬持ってたやん、あれ飲んだら落ち着くんちゃう?」
僕はエビちゃんの胸ポケットに入っとるはずの安定剤のことを思い出して、ほう提案した。 こないだも薬飲んでしばらくしたら落ち着いとったけん。
けど、エビちゃんは「ううん」と首を横に振った。
「こっちのほうが落ち着く」
エビちゃんは僕の鎖骨のあたりに頬を当てて、目を閉じた。
僕のそばにおることで落ち着くなら、ほうさせといたるんがええんかな。
「伊勢原さん、あったかいな」
いつの間にか、震えは収まっとった。
僕はちょっと暑いくらいやったんやけど、エビちゃんがあんまり気持ちよさそうにしとるけん、しばらくそのままでおった。
「さっき言われたこと、気にせられんよ。エビちゃんは今のままでええんやけん」
「うん……。伊勢原さんこそ、僕のせいで変な目で見られてごめんよ」
僕の言葉にエビちゃんは目を閉じたまま、ほう返した。
「僕はええんよ、今に始まったことでないし。前は東雲さんと付き合うてるなんて噂も流されとったし」
小さく笑いながら僕が言うと、エビちゃんは目を開けて僕を見上げた。
「付き合うとん?」
「まさか。相変わらず、僕はフリーよ」
僕がほう言うて笑うと、エビちゃんは嬉しそうに笑うた。なにがほんなに嬉しいんか、僕にはちょっとわからんかった。でも、エビちゃんが笑うてくれるんやったら、ほんで十分やった。
「エビちゃんこそ、僕みたいなおっさんと付き合うとるみたいに言われて嫌やったやろ?ごめんな」
僕が言うと、エビちゃんは慌てたように首を横に振った。
「僕は、伊勢原さんと付き合いたいよ」
エビちゃんは顔を真っ赤にして、僕を見つめてほんなことを言うた。
僕は一瞬ぽかんとして、ほれから声を出して笑うてしもた。
もっと凹んどんかと思たけど、冗談が言えるくらいなら大丈夫かな。