中身は純情乙女やけん
乗務員休憩室で、僕はエビちゃんの隣に、和は机をはさんで僕達の正面に座った。
エビちゃんのお茶は結局戦いに勝った僕が淹れて、和は早速お菓子の袋を開けとった。 「おまえ前の会社も運送会社だったん?」
和がエビちゃんに向かってほう訊ねた。
和はホンマに遠慮がないよなぁ、前の会社で嫌なことがあったんかもしれんやん。
ほなけどエビちゃんは嫌な顔一つせずに、「うん」とうなずいた。
「俺は高校卒業してからもうずっとここや。みんな感じええし、ええとこやろ?」
和は自慢げに言うた。和はホンマにここが好きやけんなぁ。
まあちょっと変わったやつもおるし、僕らと仲悪いんもおるけど、ほれは相性の問題やけん根っからの悪人はおらんと思うよ。
「感じ悪いんは和くらいやな」
とりあえず僕は、お菓子の袋に手を突っ込みながらほう言うといた。
僕はこの小さい和菓子の詰め合わせの、最中が好きなんよな。 「何を言うとんスか、俺はめちゃくちゃ感じええっしょ?みんなに愛されとうし?」
和がほう異議を唱えたもんやけん、僕は笑うてしもたよ。エビちゃんも笑とるやん。
「和はみんなのアイドルやけんな。ほなけどエビちゃんというライバルも来たしなぁ」 「はぁーん?!」
僕が言うと、和が不機嫌な声を出した。
和は社内はもちろん、社外でもかわいがってもろとうらしい。かわいいて愛想がええし、賢い子やけんな。
ほなけどエビちゃんやって和と同い年やし、何より和と違って礼儀正しいけんなぁ。
「東雲さんも、エビちゃんは真面目で仕事ができてかいらしなぁって言うとったで」
「えっ、東雲さんが?」
東雲さんの名前に、和が敏感に反応した。
僕がほう言うんを聞くなり、和は開いていた脚を閉じた。
制服はともかく、ショートパンツを履いとうときでも脚を開いとうけんなぁ、和は。
正面でほの様子をみよったエビちゃんが笑い出した。
「エビこらおまえ!ちょっと東雲さんにかわいがられとうからって!」
和は今にもつかみかからんばかりやったけど、エビちゃんは楽しそうに笑いながらお茶を飲んどった。
「東雲さんが一番かわいがっとうのは、神田橋さんじゃよ?」
エビちゃんがほう言い返すと、和は顔を赤あにして固まってしもうた。
ほれは間違いないな。
「エビちゃんも和の扱いがわかってきたやん」
僕はほう言うて二つ目の最中を口に入れた。やっぱりこの最中が甘あてうまいわ。
和は言葉遣いこそこんなんやけど、中身は純情乙女やけん。めっちゃわかりやすいけんね。