俺にヘッドロックかけたんスよ!
夕方、集配を終えた遥と和が連れだって事務所に入ってきた。
「あ!東雲さん、聞いてくださいよ!」
何やらどうでもいいことを話していた二人だったが、円の顔を見るなり和が何か思い出したように声を上げた。
「嫌や」
パソコンのモニターから目をそらさずに円が言った。
「え!ほんなん言わんと聞いてくださいって!」
「嫌ですぅー」
「昨日ね、伊勢原さんがね!」
和は円を無視して大声で一人話し始めた。
「俺にヘッドロックかけたんスよ!おっさんのくせに女の子にヘッドロックかけよんスよ?!」 「都合のええときだけ女の子になるなよ」
様子を見ていた遥が、呆れたように笑った。
「ホンマか~」
円がようやくモニターから和に視線を移した。
「ホンマッスよ!なあエビ?おまえ見とったな?」
突然和に話を振られた静は、円の隣で「見てました」と答えた。
「伊勢原さん、僕の大事な神田橋さんにまたヘッドロックをかけたんですか」
円は黒目がちな目で遥を見つめながら、低音のやたらいい声でそう言った。
「和!汚いぞ!!」
なぜか冷や汗をかきながら、慌てた様子で遥が怒鳴った。
「汚いことないでしょ、事実を言うたまでッスよ」
和は涼しげな顔でそう言った。
静は3人のやり取りをキョトンとした顔で見ていた。