エビちゃんは僕の大事な息子やけん
週末、僕達は個室の焼き肉店に集まった。結構いいお値段の店なんやけど、遠慮したら逆に東雲さんに悪いけんな、今日は楽しませてもらお。
「本日は僕の40歳の誕生祝いにお集まりくださり、誠にありがとうございます。細かいことはさておき、乾杯!」 いつもみたいに、東雲さんは簡潔な乾杯の音頭を取った。
「かんぱーい!」
「おめでとうございます!」
ほんでいつもみたいに、僕らはビールで乾杯した。
「とうとう40歳になってしもた」
肩を落としながら東雲さんが言うた。まぁ、僕も40歳になるときはショックやったな。
30代はまだまだ若いって言い張れたけど、40代はホンマおっさんが加速していくもん。
「なに言うてんスか、ますますかっこよくなりましたよ」
いつも通り東雲さんの横の席を陣取った和が言うた。
ほうよな、東雲さんは若いときもかいらしいていわゆるイケメンやったけど、今は今で男前が上がっとうと思うわ。
「伊勢原さんを見てくださいよ、今年47ッスよ」
和よ、ほれはええ意味で言うとんやろな?
「……あぁ……」
東雲さんは僕を見て、深いため息をついた。
僕がほう声をあげると、隣に座っとうエビちゃんが口元を押さえてクスクス笑うた。
「僕も東雲さんと伊勢原さんみたいに、かっこええ大人の男になりたいです」
ほう言うエビちゃんを見て、僕も東雲さんも目を細めた。
「エビちゃんはええ子やなぁ。何でも好きなもん食べよ、おじさんがおごったあけん」 東雲さんはほう言いながら、メニューをエビちゃんに渡した。
「好きなだけ飲みよ、酔いつぶれたらおっちゃんが送ったるけんな」 僕はエビちゃんの頭をポンポンと叩いて言うた。
僕がかっこええって?もう、エビちゃんはホンマのことばっかり言うてくれるんやけん、かわいいわぁ。
「きっしょ!!おっさんたちきっしょ!!!」
和が引き気味に声を上げたけん、僕と東雲さんは目を合わせて笑うた。
「和は今まで僕と東雲さんの愛情を独り占めしとったけん、ヤキモチ焼いとんな?」 ニヤニヤしながら僕が言うと、和は不機嫌そうにそっぽを向いてしもうた。
心配せんでも、お姫様は和一人やって。
「ヤキモチ焼かんと肉焼き」
東雲さんが言うと同時にナイスなタイミングで上ロースが運ばれてきて、誘惑に即堕ちした和が涎を垂らしながら鉄板に肉を並べていった。わかりやすいやっちゃ。 「神田橋さんもおなかいっぱい食べて飲みよ、酔いつぶれたら僕が連れて帰ったあけんね」
「アカーン!僕が許せへんけんな!」
東雲さんがスケベな笑顔を見せたけん、僕は慌てて声を上げた。油断も隙もないな。 「心配せんでも優しくするけん」
「アカーン!」
「うるさいお父さんやなぁ」
東雲さんはやれやれという顔をした。ここ間違うとん僕なん?
エビちゃんは僕と東雲さんのいつも通りのやり取りを見て、クスクスと笑うた。
「神田橋さん、ホンマにかわいがられとんのやね」
エビちゃんは正面に座る和を少しうらやましそうな目で見ながら、ほう言うた。
「まあいつものことやけんな」
和はほう言うて笑うて、上ロースを口に運んでほの旨さにうなった。
「エビちゃんやってかわいいよ、僕はエビちゃんやったら全然相手させてほしいなぁ」
東雲さんがエビちゃんにとびきり上品な笑顔を向けて言うた。 「アカーン!!エビちゃんは僕の大事な息子やけん!」
僕は今日一番大きな声を出して、エビちゃんを抱きすくめた。
東雲さん、なんちゅう顔をするんよ。僕は付き合い長いけんわかるけど、ほれはホンマにスケベなこと考えとうときの顔やけん。
ほら、エビちゃんやって顔を赤あにしてうつむいてもうてるやん。恥ずかしいよなぁ?
「ぼ、僕は、伊勢原さんやったら相手させてほしいです」
エビちゃんが恥ずかしそうにほんなことを言うたもんやけん、僕はまた東雲さんと目を合わせて大笑いしてしもたよ。
「どしたん、もう酔うとん?かわいいなぁ」
エビちゃん、あんまり飲んでないみたいやけど、僕らと違って酒に強い子とちゃうけんな。
これは家まで送ったらなアカンかな?
「え?僕振られたん?」
「そうみたいッスね」
笑いすぎて涙目になっとう東雲さんを、和は鼻で笑うた。
ほの後も大騒ぎしながら、僕らは満腹になるまで肉を食うて40歳になった東雲さんを盛大に祝った。
40代ってなってみると思とうほど悪うはないよ、僕やってこうやって若い友達とワイワイやれて毎日楽しいし。