とうとう40歳になってしもた
「本日は僕の40歳の誕生祝いにお集まりくださり、誠にありがとうございます。細かいことはさておき、乾杯!」 「かんぱーい!」
「おめでとうございます!」
「とうとう40歳になってしもた」
「なに言うてんスか、ますますかっこよくなりましたよ」
肩を落とす円に、和がそう言った。和の言葉はいつも正直だった。
「伊勢原さんを見てくださいよ、今年47ッスよ」
「……あぁ……」
和に言われて遥を見た円が、深いため息をついた。
不満げな声を上げる遥。その隣に座っていた静が口元を押さえて笑った。
「僕も東雲さんと伊勢原さんみたいに、かっこいい大人の男になりたいです」
そう言う静を見て、遥と円は目を細めた。
「エビちゃんはええ子やなぁ。何でも好きなもん食べよ、おじさんがおごったあけん」 円がそう言いながらメニューを静に渡した。
「好きなだけ飲みよ、酔いつぶれたらおっちゃんが送ったるけんな」 遥は静の頭をポンポンと叩きながら言った。
「きっしょ!!おっさんたちきっしょ!!!」
和が引き気味に声を上げると、遥と円が目を合わせて笑った。
「和は今まで僕と東雲さんの愛情を独り占めしとったけん、ヤキモチ焼いとんな?」 ニヤニヤしながら遥が言うと、和は不機嫌そうにそっぽを向いてしまった
「ヤキモチ焼かんと肉焼き」
円が言うと同時にナイスなタイミングで上ロースが運ばれてきて、誘惑に即堕ちした和がよだれを垂らしながら鉄板に肉を並べていった。 「神田橋さんもおなかいっぱい食べて飲みよ、酔いつぶれたら僕が連れて帰ったあけんね」
「アカーン!僕が許せへんけんな!」
円がスケベな笑顔を見せたので、遥が慌てて声を上げた。
「心配せんでも優しくするけん」
「アカーン!」
「うるさいお父さんやなぁ」
遥と円のいつも通りのやり取りを見て、静はクスクスと笑った。
「神田橋さん、ホンマにかわいがられとんのやね」
正面に座る和を見る静の目には、若干の羨望の色があった。
「まあいつものことやけんな」
和はそう言って笑い、上ロースを口に運んでその旨さにうなった。
「エビちゃんやってかわいいよ、僕はエビちゃんやったら全然相手さしてほしいなぁ」
円が静に笑顔を向けて言った。
「アカーン!!エビちゃんは僕の大事な息子やけん!」
今日一番大きな声を出した遥に抱きすくめられて、静は顔を赤くしてうつむいてしまった。
「ぼ、僕は、伊勢原さんやったら相手させてほしいです」
恥ずかしそうに静が言うと、遥と円が声を上げて大笑いした。
「どしたん、もう酔うとん?かわいいなぁ」
遥がそう言ったが、静のビールはあまり減っていなかった。
「え?僕振られたん?」
「そうみたいッスね」
笑いすぎて涙目になっている円を、和は鼻で笑った。