どの子を見てもかいらしわ
「うわー、うまそう!」
運ばれてきた山盛りの海鮮丼を見て、和が嬉しそうに声を上げた。 鳴門の道の駅にやってきた僕達は、食堂に入るとそれぞれお目当ての海鮮丼の食券を買うた。 三段のデカ盛り海鮮丼がここの名物みたいなんやけど、和やったら絶対一人でいってまうと思うんよなぁ。
ほれやのに今日は普通のマグロ丼って、えらいおとなしいやん。
「あれはまた今度、みんなで食いましょうよ。今日は俺、カレーも食うし」 早速丼に箸を付けながら、和が言うた。
「嘘やろ」
前言撤回。みんなでこんなとこまで来て、和がおとなしいやいうことがあり得んわ。
「おなかいっぱい食べ、帰りも僕の運転やけん」
東雲さんが優しい声で言うと、和は嬉しそうに笑ってうなずいた。
「東雲さん、ホンマに運転うまいですよね」
エビちゃんが言うと、なぜか和が得意げに「当たり前やん」と言うた。
「東雲さんは若いころ大型乗っとったんぞ、トレーラーも運転できるんぞ」
和の言葉に、エビちゃんは驚いたみたいやった。東雲さん、普段は昔の話やせえへんけんな。
地上勤になってからもとにかく優秀で、他の事務員の言うことは素直に聞かんドライバーも東雲さんの言うことだけは聞いたりするんよなぁ。
僕なんか事務所に入れって言われても絶対無理や、ポンコツになってまうわ。
東雲さんは鰤を口に運びながら少し残念そうに言うた。
「違う違う!今より若い頃って意味ッスやん!もー東雲さん繊細過ぎるわぁ!」
慌てて和が弁解するもんやけん、僕とエビちゃんは顔を見合わせて笑うてしもうた。
「ほな大雑把な神田橋さんと、繊細な僕の子供やったらちょうどええ感じになるかな?」
東雲さんがほんなことを言うもんやけん、和がむせた。
「和もね、こう見えて繊細なんですよ。東雲さんの冗談で恥ずかしがるくらいにはね」
僕は必死に笑いをこらえながらほう言うた。東雲さんは上品な笑顔で和を眺めとった。 エビちゃんはというと、僕の隣で喉の奥から小鳥みたいな声を出して笑うとった。
「エビおまえ、笑っとらんとなんか助けぇや!」
和はまたもやエビちゃんに助けを求めた。
「東雲さんも、ホンマに神田橋さんのことが好きですよね」
エビちゃんはほう言うと、マグロをひと切れ口に入れて楽しそうに笑うた。
ほれを聞いた東雲さんはワハハと声を上げて笑うた。
エビちゃん、いつも核心を突いてくるなぁ。
助けを求めたはずの和は顔を真っ赤にして、黙って箸を動かしとった。
「かわいいなぁ、ホンマ」
東雲さんですら7つ年下やし、僕はこの中では保護者ポジションやけん、どの子を見てもかいらしわ。