説明深度の錯覚
The Illusion of Explanatory Depth
IoED
たとえば筆算など、手続きを踏めば答えが出るというのは、手続きの理解であって、仕組みと働きの理解とは異なる。
概要
「実際の理解」と「理解しているつもり」に大きなギャップがあることを「説明の深さ幻想」という研究が明らかにしました。
蝶結びはほとんどの人ができるでしょう。けれど、ある紐を引っ張るとほどけるけれど、別の紐を引っ張るときつくなる作用について明瞭に説明できる人はほとんどいないでしょう。
「やり方の理解」と「仕組みの理解」は混同して「できる」と捉えがちです。分かっていたことは手順だけだったということがほとんどです。この作用を利用します。
仕組みや作用といったことを説明しようとすると理解していないエリアがどんどんみつかります。新たに理解を深めると、今までの理解が違って見えてきます。
ムカデの有名な寓話がありますね。100本の足で見事に歩くムカデに「見事な足捌きはどうやっているの」と聞かれて、頭で考えようとし始めたら動けなくなってしまったという話しです。
動けなくなったところから、歩くことを理解しなおして、改めて一歩ずつ動けるようにしていきましょう。
「ヤクの毛刈り(yak shaving)」の理不尽な困難を乗り越える - スタジオ・アルカナ技術ブログ
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説明深度の浅い本
メタファーを多用(メカニズムを隠す
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説明深度テスト
1 あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、七段階評価で答えてください。
ファスナーはどのような仕組みで動くのか、できるだけ詳細に説明してください。
ロゼンブリットとカイルの被験者の多くがそうであったように、あなたもファスナー工場には勤めていないだろうし、そうなると二つ目の質問にはほとんど何も答えられなかったはずだ。ファスナーがどのように開閉するのか、実際にはまるでわかっていないのだ。続いて、こう聞かれる。
3 もう一度、あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、七段階評価で答えてください。
人々が錯覚のなかで生きていることが示される。被験者たちは、自分がファスナーの仕組みをもっとよく理解していると思っていたと認めた。二回目の評価で理解度を引き下げたのは、要するに「自分が思っていたほど知らなかった」と言っているのに等しい。知識の錯覚を解くのは驚くほど簡単だ。では説明してくれ、と相手に頼むだけでいい。
ロゼンブリットとカイルは、速度計、ピアノの鍵盤、水洗トイレ、シリンダー錠、ヘリコプター、クォーツ時計、ミシンなどについても同じ結果を得た。被験者は一様に錯覚を示した。
説明深度の錯覚の本質
これこそが「説明深度の錯覚」の本質である。何かを説明しようとするまで、被験者は自分の理解度はそれなりの水準だと思っていた。だが説明した後には、そうは思わない。自己評価を下げたのが「知識」の定義を変えたためだとしても、自分が思っていたほど知らなかったという気づきを得たことは変わらない。ロゼンブリットとカイルによると「自分の知識が思っていたより大幅に浅かったことに対して、被験者の多くが真摯な驚きとともに謙虚さを示した」
「説明深度の錯覚」のわかりやすい例が、自転車についての知識である。リバプール大学の心理学者、レベッカ・ローソンは同大学の心理学を専攻する学部生に、自転車の略図を見せた。その自転車にはチェーンやペダルもなく、フレームの部品もいくつか欠けている。
https://gyazo.com/aa4f71e4a591c72b4756dd6dfafa3b75
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分かっているのであれば…
1.できるはずのことが実際に行えるか試してみる
2.発展させられないか検討してみる
3.近いの概念との類似点と相違点を表現してみる
4.因果関係で説明してみる
5.発生、構造、機能を説明してみる
6.概念が用いられるコンテキストを説明してみる
例えばお好み焼きの理解なら、
1.実際に作ってみる
2.焼きそばといった異なる具材を入れてどうなるかを検討し、試す
3.広島焼きとの類似点と相違点を述べる
4.お好み焼きに関する因果関係(作り方?)を説明する
5.お好み焼きの成り立ち(歴史)、構造(小麦粉と具材の関係など)、機能(味や栄養価)
6.どのような状況でお好み焼きが用いられるかを述べる
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メカニズムの多くは、小さすぎたり(たとえば水が沸騰して水蒸気となる原因である分子の変化)、抽象的すぎたり(たとえば貧困の経済的要因)、あるいはアクセス不可能(たとえば心臓が体中に血液を送る仕組み)で観察できない。ワクチンがどのように機能するのか、食料の遺伝子組み換えがどのように行われるのかを見ることはできないので、その欠落を自らの経験で補おうとする。それが誤解につながるのだ
CRTテストのスコアが高い人は説明深度の錯覚は少なくなる。 *3
被験者に、さまざまなわかりにくい商品のメカニズムについて、自らの理解度を評価してもらった(二週間、植物に自動的に水やりをする「アクア・グローブ」など)。評価は自らの理解している内容を語る前と後に、それぞれ依頼した。CRTのスコアが高い被験者には、錯覚がまったく見られなかった。それとは正反対だったのが、CRTでゼロ点、あるいは一問しか正答しなかった被験者で、かなりの錯覚が見られた。要するに、熟慮型の被験者では説明の前後で自らの理解度に対する評価がまったく変わらなかったのに対し、あまり熟慮しないタイプの被験者は説明した後で自らの当初の判断に疑問を抱くようになっていた
*2
CRTテストに関連した製品説明と趣向*2
熟慮型の被験者(CRTのスコアの高い人)は、詳しく説明されている製品を好む傾向があった
CRTのスコアが低い人は、ほんのわずかしか説明がない製品を好んだ
試してみよう
1.テクノロジーに対する自分の知識を10段階で評価してみよう。
2.以下の問いから科学リテラシーのチェックをしてみよう。理解の自信を10段階で書いておこう。
table:アメリカ科学委員会による、科学に対する国民の理解度調査
3以外は○×で回答 正答率
1.地球の中心はとても熱い 84
2.各大陸は何百万年もかけて現在の位置まで移動した。今後も移動し続ける。 80
3地球が太陽の周りを回るのか、太陽が地球の周りを回るのか。 73
4.放射能はすべて人為的につくられた。 67
5.電子は原子より小さい。 51
6.レーザーは音波を集中させてつくる。 47
7.宇宙は巨大な爆発とともに始まった。 38
8.生物のクローン技術は、遺伝子的に同一のコピーを作る。 80
9.赤ん坊の性別を決めるのは父親の遺伝子である。 61
10.一般のトマトには遺伝子はなく、遺伝子組み換えトマトにはある。 47
11.抗生物質は細菌とウィルスの両方に効果がある。 50
12.今日私たちが知っている人間は、祖先である動物から発達した。 47
※信仰によって○×が変わる問いもあることに留意する。
3.改めて科学リテラシーに関する理解の自信を10段階で評価してみよう。
4.それぞれの問いについて詳細に解説してみてみよう。
たとえば「9.抗生物質は細菌とウィルスの両方に効果がある。」において、細菌とウイルスの具体的な違い、抗生物質の働き、なぜ効果があるのかと効果がないのかを詳細に説明してみよう。
一段落したら、詳細に説明できる度合いを10段階で書いてみよう。
5.改めて科学リテラシーに関する理解の自信を10段階で評価してみよう。
表記ゆれ
説明の深さ幻想
出典
*3 Explanation Fiends and Foes: How Mechanistic Detail Determines Understanding and Preference
関連論文
W. Epstein, A. M. Glenberg, and M. M. Bradley (1984). Coactivation and Comprehension: Contribution of Text Variables to the Illusion of Knowing.
A. M. Glenberg, A. C. Wilkinson, and W. Epstein (1982). The Illusion of Knowing: Failure in the Self-Assessment of Comprehension.
レポートの答え
1.○ 2.○ 3.地球が太陽の周りを回る
4.× 5.○ 6.×
7.○ 8.○ 9.○
10.× 11.× 12.○
関連
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