許可スキーマ
許可スキーマ
実は、私たちはきわめて自然に、論理学的に見て正しい推論ができる場合もある。次のような状況を考えてみよう。あなたはある国の空港で入国管理を行う立場にある。この国に入国するには、コレラの予防接種が必要となっている。今、目の前に表には「入国」か「一時立ち寄り」が記され、裏には予防接種のリストが記されているカードが四枚並んでいる( 図6-1)。あなたがチェックしなければならないのはどのカードだろうか。
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さて、PとかQとか、対偶とか、そういう難しいことは一切考えずに、どのカードをチェックするかを考えてみよう。すると多くの人は、「入国」と「赤痢、疫痢」を選択すると思う。そしてそれは論理学的な意味での正解と一致している。
※「赤痢、疫痢」を選択するのは、「赤痢、疫痢」の予防接種をしているという意味であり、コレラの予防接種をしていないから。予防接種をしていないリストではなく、予防接種済みのリストになっている。
チェンとホリオーク( 57) は、こうした実験をもとに、「許可」という文脈の時には、私たちの推論は論理学的な正解と一致することを見出した。許可の文脈というのは、ある行為とその前提条件に関わるものである。つまり、「もし○○のことを行うのであれば、××をしなければならない」という形で表される事態である。「入学するならば、学費を払う」、「おやつを食べるならば、お手伝いをする」、「弁護士になるならば、司法試験にパスする」などはすべて許可の文脈ということになる。
許可のスキーマ
①行為を行うのであれば、前提条件を満たさねばならない
②行為を行わないのであれば、前提条件を満たしても満たさなくてもよい
③前提条件を満たせば、行為を行っても(行わなくても)よい
④前提条件を満たしていなければ、行為を行ってはならない
この四つの中で、①と④は「……ねばならない」となっており、必須であることを示している。ということは、「行為を行う時」、「前提条件を満たさない時」の二つが要チェックとなる。つまり「入国する時」と「コレラが記載されていない時」に注目しなければならないことが自然にわかる。よってこれらのカードが選択されることになる。一方、②と③は文末が「……てもよい」というようにどちらでもよいことを示している。だから、「一時立ち寄り」や「コレラ、赤痢」はチェックしなくてもよいということになる。こうしたスキーマを用いることで、私たちは許可が絡むさまざまな状況で適切に推論を行うことができる。
チェンとホリオークは、私たちは日常的な状況の意味に対応するいくつかの推論のためのスキーマ、実用的推論スキーマを持っており、許可のスキーマはその中の一つであるとしている。これが意味することは、私たちは「ならば」が関係するすべての状況に適用できるルールに基づいているのではなく、状況の意味に対応したスキーマに基づいて推論を行っているということである。
論文
(57),Cheng, P. W., & Holyoak, K. J. (1985). Pragmatic reasoning schemas.
出典