思考の同時並列活性
これらのリソースはスイッチによる切り替えのように、ある文脈ではリソースXがはたらき、別の文脈ではリソースYがはたらくというようになっているのだろうか。どうもそうではない、あるいはそうとばかりも言えないことが、ゴールディン-メドウ( 67) らの研究から明らかになってきている。
彼女たちが注目したのは、ジェスチャー・スピーチ・ミスマッチと呼ばれる現象である。これは、読んで字のごとく、話していることと、身振り=ジェスチャーが一致しないことを指す。たとえば前項で挙げた数の保存課題において、長いほうの列のおはじきが多いと答えた子どもに、どうしてそうなのか理由を尋ねる。すると一部の子どもたちは、「だってこっちのほうが長いから」と言いつつ、指は上の段のおはじきと下の段のおはじきを一対一に交互に対応づける動作をするという。 この子どもたちは、はじめの判断で長いほうの列を多いと言語的に報告している。ということは、彼らは保存の段階に達していないことを示している。重複波モデルの言い方をすれば、保存を可能にする認知的なリソースのはたらきが弱く、長さをもとにした見かけの判断をサポートする認知リソースが優勢であると考えられる。しかし、ジェスチャーにおいて見られた一対一対応は、二つの数が等しいことを確認するための最も基本的な操作である。このことから考えれば、この子どもたちの中には、次の段階へ進むための基本的な認知リソースはすでに存在しているということになる。
さらに重要なことは、これら二つの相反する認知リソースが共存しているだけでなく、同時に活性し、機能している、つまり共起している点である。長さに基づく判断という優勢な反応を支える認知リソースは、その強度の高さゆえか意識の上にのぼり言語的なアウトプットを生み出す。一方、言語的アウトプットを奪われた、一対一対応を支える認知リソースは、その場から退いてしまうのではなく、身体を通してそのアウトプットを生み出していると考えることができるだろう。
状況の提供する情報に対して、多様な認知リソースがリアクティブに反応する。ここで、より多くの情報からサポートされた認知リソースは最も強く活性化され、結果として意識化できる行為を生み出す。一方、そうした行為を生み出さなかった認知リソースもある程度までは活性化されており、それは時には身体を通して意識化されない行為を生み出す。
関連
参考
(67), Goldin-Meadow, S. (2003). 『Hearing Gesture: How our hands help us think.』
出典