当たりに偽装したハズレ
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実際のカジノでは、前述のとおり、ほとんどカジノ運営側が勝利する。だが、客に正反対の期待を抱かせる巧みな作戦をいろいろと仕込んでいる。スロットマシンの機械自体もそうだ。その点で初期のマシンは単純な装置だった。プレイヤーがマシンのアームを引くと(スロットマシンのことを「片腕の強盗ワンアームド・バンディット」と呼ぶのは、これに由来している)、3個の機械仕掛けのリールが回る。リールが止まったとき、中央に2つ以上同じシンボルが出ると、一定の数のコインや配当(クレジット)が出る。
ただし現代のスロットマシンでは、当たりラインは1種類ではない。一度に数百ラインで賭けるマシンもある。たとえば、次に載せるイラストでは、直線やV字やジグザグなど、15種類のラインで賭けられる。
このマシンを10セントで1スピンできるとしよう。15ラインすべてに賭けるには、アームを1回引くごとに1ドル50セントかかる。こまめに15回まわすのではなく、基本的には1度で15回転させる。カジノ運営側としてはこの遊び方のほうが嬉しいのだ。15倍速く客を打ち負かすことができる。一方で客としては、15本もあれば最低1ラインくらいは当たる可能性が高い。客が勝つと、機械は明るいライトとキャッチーな電子音をそのつど同じように発して、盛大に祝ってみせる。
想像してみてほしい——あなたは1ドル50セントで15ライン全部に賭けている。そして15回転のうち1回で、イラストの4に示したように、爆弾マークが2つ並ぶ。爆弾マーク2つで配当が10で、1ドルの賞金が出る。悪くない気分だ——実際には、スピン1回で差し引き50セント損しているというのに。マシンが派手な光と音であなたを祝福するので、そのフィードバックに思わず嬉しくなってしまうのだが、それは文化人類学者のシュールをはじめギャンブル専門家が「当たりに偽装したハズレ」と呼ぶタイプの勝利なのである。
心理学者のマイク・ディクソンは、こうした「当たりに偽装したハズレ」の分析を行っている*8。ディクソンは「ラッキー・ラリーのロブスターマニア」というスロットゲームに注目した
ロブスターマニアは、15ライン同時に賭けるゲームだ。リールは5本、シンボルはリール1本あたり3つ出るので、組み合わせは合計で2億5900万以上。ディクソンらの計算では、1回で賭けるラインが6本以上になると、プレイヤーは「当たりに偽装したハズレ」を本物の当たりだと感じやすいことがわかった。
偽装が問題なのは、プレイヤーが敗北という認識をもたないからだ。彼らはこれを勝ちと分類する。ディクソンの実験では、ギャンブル経験が少ない被験者の身体に電極を装着し、ロブスターマニアをプレイさせた。被験者に10ドルを渡し、勝てば追加の20ドルがもらえると説明する。被験者はそれから30分で、平均138回スピンした。この間、装着した電極が、被験者の汗の変化を1分ごとに検知していた。発汗の具合によって感情的に反応したかどうかが確認できるというわけだ。
昨今のビデオ式スロットマシンの多くがそうであるように、ロブスターマニアも、体験を強化するフィードバックが満載だ。回転中はBGMとしてロックバンドB-52'sの「ロック・ロブスター」という賑やかな歌が流れている。外れたときには静かになり、当たったときにはいっそうやかましく派手に歌が流れる。それが本当の当たりでも、当たりのふりをしたハズレでも、同じようにライトが光り、チャイムが鳴る。
実験では、当たると被験者の発汗量が増えていたのだが、それが本当の当たりでも、偽りの当たりでも、発汗量は変わらないことがわかった。現代のスロットマシン、そして現代のカジノ全般が危険なのは、このためだ。エレベーターで全部のボタンを押した坊やと同じく、大人も光るものや音が鳴るものに弱い。本当は負けているのに、脳がそれを勝ちだと認識してしまうのだとしたら、どうやって自制心を発揮してギャンブルをやめることができるだろう。
パチンコのフィーバー
https://youtu.be/xcgfgMSEvT8
https://youtu.be/bIga6Gr0tdk
https://youtu.be/6HU5BWLucdI?t=82