即興劇
正しい自発的行動がとれる集中すべき条件
★p120.1
即興芝居を可能にしているルールのうち、特に重要なのは「同意」だ。物語やユーモアを創作する場合、登場人物がその場で起きたことをすべて受け入れると、やりやすくなる。即興芝居の劇場を創設したキース・ジョンストンは書いている。「ここでちょっと自分や自分の大事な人に起きてほしくないことを考えてみたまえ。すると、舞台や映画で演じる価値のあることを思いつく。レストランに入るなり顔にカスタードパイが飛んできたらいやだし、おばあさんの車椅子が崖っぷちに向かって転がっていくのも見たくない。でも私たちはそのような場面の出てくる芝居や映画を金を出して見に行く。ここのところを理解すれば「天才的」な即興役者になれる。下手な役者は、演技力があっても、物語を止めてしまう。うまい役者は物語を進める」
次に掲げるのは、ジョンストン門下の二人の役者が披露した掛け合いである。
A「脚の調子が悪いんです」
B「切らないといけないな」
A「先生、それはやめてください」
B「なぜだね?」
A「脚がかわいくて、離れられないんです」
B「(やる気なさそうに)おいおい」
A「腕にもはれ物ができているんですけど」
これでは二人とも立ち往生だ。話を先に進めることができない。役者Aは気の利いた冗談を言った(「脚がかわいくて、離れられないんです」)。でも次につながらない。そこでジョンストンは二人をさえぎって問題を指摘した。役者Aは「合意のルール」に違反したのだ。相手の提案を断って、「先生、それはやめてください」と言ってしまった。
そこで二人はもう一度やり直した。その前に、相手の台詞に同意することを再確認した。
A「ギャーッ」
B「どうしたんだい」
A「脚を診てください、先生」
B「ひどいね。切断したほうがいいな」
A「前に先生が切った脚ですよ」
B「木の義足が痛むと言うのかね」
A「そうなんです」
B「なぜだと思う?」
A「まさか木食い虫じゃないでしょうね」
B「そのとおりだよ。被害が広がらないうちに取ってしまわないと」
(Aの椅子が崩れる)
B「おやおや、椅子まで食われてしまったよ」
先ほどの二人だ。演技力は変わっていないし、まったく同じ役柄を演じている。出だしもほとんど同じ。だが、最初の掛け合いはオチがなかったが、二度目では話が広がっている。簡単なルールに従うことで、二人の芝居は面白くなった。
警官「(あえぎながら)おい、おれはもう五〇でいささか太り気味だ。ちょっと止まって休まないか?」
泥棒「(あえぎながら)止まったところで捕まえようってんじゃないだろうな」
警官「約束するよ。ちょっとだけ休もう。三つ数えたら休むぞ。一、二の三」
出典