軌道損失
#用語解説
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軌道損失とは、プラズマ中の荷電粒子(アルファ粒子など)が磁場や電場の影響で、プラズマを閉じ込める領域から外れてしまい、装置の壁などに衝突してエネルギーを失う現象です。核融合装置では、プラズマの粒子を磁場で閉じ込めて高温を維持することが重要ですが、すべての粒子が完全に閉じ込められるわけではありません。特にエネルギーの高い粒子や特定の軌道を持つ粒子は、装置の壁にぶつかってしまうことがあります。
軌道損失の仕組み
プラズマ中の荷電粒子は、磁場の影響でシクロトロン運動をしながら磁力線に沿って運動します。このとき、粒子の軌道はプラズマの内部に留まることが理想ですが、次のような場合に軌道損失が発生します。
1. 共鳴によるエネルギー変化:
アルファ粒子がRF波や磁場の共鳴効果によってエネルギーや軌道が変化すると、粒子が本来の軌道から逸れて、装置の壁に向かって進む場合があります。これは、粒子がエネルギーを受けて加速されたり、方向が変わったりすることによって起こります。
2. バナナ軌道:
トカマク型核融合装置のような磁場構造では、磁力線がねじれた形になっており、一部の粒子は「バナナ軌道」と呼ばれる特徴的な軌道を描きます。このような粒子は、プラズマの縁に向かって移動することがあり、特定の条件下では軌道損失が発生します。
3. MHD不安定性:
プラズマの中で磁気流体力学(MHD)の不安定性が発生すると、粒子の軌道が乱され、通常の閉じ込め領域から外れることがあります。これにより、粒子が装置の壁にぶつかって損失します。
軌道損失の影響
軌道損失は、核融合装置の運転に悪影響を及ぼす可能性があります。
エネルギー損失: アルファ粒子などの高エネルギー粒子がプラズマから失われると、そのエネルギーはプラズマに伝わらず、プラズマの温度を上げる効果が減少します。これは核融合反応の効率低下につながります。
装置へのダメージ: 高エネルギーの粒子が装置の壁に衝突すると、装置の材料が損傷する可能性があります。これにより、プラズマ閉じ込め容器の寿命が短くなったり、放射性廃棄物が発生するリスクが高まります。
軌道損失の制御
核融合装置では、軌道損失を最小限に抑えることが重要です。そのために、以下の対策が取られます:
1. 磁場の最適化: プラズマをできるだけ均一に閉じ込めるために、磁場構造を調整し、粒子が外に逃げないようにします。
2. RF波の適切な使用: アルファ粒子が共鳴して余分なエネルギーを得すぎないように、RF波の周波数や強度を最適化します。
3. MHD不安定性の抑制: プラズマの安定性を保つために、MHDモードの発生を抑える工夫を行います。
このように、軌道損失はプラズマ閉じ込め性能や装置の耐久性に関わるため、核融合研究において重要な課題です。