核融合三重積
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核融合三重積(Fusion Triple Product)とは
核融合三重積( $ nT\tau_E )は、プラズマの核融合反応を持続させるための重要な指標であり、以下の三要素の積として表されます。 この三重積が高いほど、核融合反応が効率よく進行し、持続可能な核融合エネルギーの生成に近づきます。
核融合三重積の歴史と目標値
1. 核融合研究の黎明期(1950年代~1960年代)
1950年代から始まった核融合研究では、プラズマを高温で維持し、核融合反応を引き起こす方法が模索されました。しかし当時は、プラズマがすぐに拡散してしまい、必要な閉じ込め時間が得られませんでした。 この時期にローレンス・リバモア国立研究所のJohn D. Lawsonが、核融合反応を持続させる条件を示した「ロースン基準(Lawson Criterion)」を提唱しました。
ロースン基準の概要
Lawsonは、核融合反応がエネルギーを生成する条件として、次の式を導きました。
$ n \tau_E > \frac{12 k_B T}{\sigma v}
ここで、 $ \sigma v は核融合反応断面積と粒子速度の積です。これが後の核融合三重積の基礎となります。
2. 1970年代~1980年代:トカマクの登場と三重積の向上 1970年代には、ソ連で開発されたトカマク方式が登場し、プラズマの閉じ込め性能が飛躍的に向上しました。特にT-3トカマクは世界中で模倣され、核融合研究の主流となりました。 この時期の目標値として、
商業核融合反応
$ nT\tau_E = 3 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s}
$ nT\tau_E = 1 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s}
が設定されました。
3. 1990年代~2000年代:大型トカマク装置の成果 JET(Joint European Torus) 1983年に運転開始し、D-Tプラズマでの核融合実験を進めました。JETは1997年に最大の核融合出力16MWを記録しましたが、核融合三重積は約 $ 10^{20} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s} 程度とされています。 JT-60では、高βp Hモードプラズマで $ 1.53 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s} を達成したと報告されています。これはトカマク装置で達成された最高水準の三重積の一つです。 TFTRは1994年にD-Tプラズマで10.7MWの核融合出力を記録しました。三重積は $ 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s} に近づきましたが、商業レベルには到達していません。 $ nT\tau_E = 5 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s}
を目指しており、商業核融合の実現に向けた最重要プロジェクトとなっています。ITERが成功すれば、核融合発電所への道が開かれると期待されています。 ST40のような球状トカマク(Spherical Tokamak)は、従来のトカマクよりもコンパクトかつ高磁場でプラズマを閉じ込める新しいアプローチです。ST40では、これまでに $ 6 \times 10^{18} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s}
が達成されており、これは従来の球状トカマクとしては非常に高い数値です。 球状トカマクは商業核融合炉の設計を小型化し、コストを削減する可能性があるため、今後の核融合技術の発展に重要な役割を果たすと期待されています。 核融合三重積の今後の目標
ITERが目標とする $ 5 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\text{keV}\text{s} を超えることが、商業核融合の実現には不可欠です。 次世代の核融合炉では、閉じ込め性能の向上やプラズマ不安定性の抑制などが求められます。 核融合三重積は、核融合エネルギーを実現するための「道しるべ」であり、今後の研究においても重要な指標であり続けるでしょう。
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