単純接触効果
一九八〇年、 社会心理学者のロバート・ザイアンスは、ヴントが提唱し、 長らく忘れられていた感情先行の概念を復活させた。ザイアンスは、 「人間は、 まず理解し、 分類したうえでものごとに反応する、冷静で理性的な情報「処理マシンだ」 とする、 当時の心理学者に流布していた一般的な見方にうんざりしていた。 そこで彼は、漢字、架空の言語、 幾何学的な形など、 恣意的な事物の好感度を被験者に評価させる、いくつかの巧妙な実験を行なった。 外国の文字や、 無意味ななぐり書きに対する好感度を評価させるというのは奇妙に思われるかもしれないが、私たちが目にするものは、ほとんどどんなものでも小さな突発的感情を引き起こすがゆえ、被験者はそれを評価できる。さらに重要なことに、 ザイアンスは、 どんな言葉やイメージも、何度か被験者に見せることで、より好ましく見えるよう仕向けられた。 脳は見慣れたものを好ましいと見なすのだ。 彼は、この効果を 「単純「接触効果」と呼んだが、これは宣伝の基本原理の一つとして利用されている。社会はなぜ左と右にわかれるのか ジョナサン・ハイト・位置1361 人間は、新しいものに対しては本能的に警戒心を持ちます。そして「敵」だと考えて身構えます(人間だけでなく、動物一般がそうです)。新しい道具の場合もそうです。それに対して警戒心を持ち、「敵」だと考えると、反感を持ち、自分から進んで使うことはありません。したがって、ますます離れていくことになります。逆に、何かのきっかけで、新しい道具が自分にとって利益をもたらしてくれるということが分かると、それをますます使い、仕事の能率が上がり、さらに使っていく、という好循環が起きます。つまり、力強い味方になるわけです。考え方を「敵」から「味方」に転換しただけで、このような大きな変化が起きるのです。書くことについて 野口悠紀雄 (pp.43-44). Kindle 版.