偽りの自己
精神分析医のドナルド・ウィニコットは1960年代に 「偽りの自己」という概念を提唱した。 ウィニコットによれば、偽りの自己とは耐え難い外からの要求やストレスに対する防御として自分で作り上げる人格のことだ。ウィニコットは偽りの自己を作ることで深刻な空虚感を味わうことになると言っている。 そこは無なのだ。 SNSは現実からかけ離れた人生の物語を簡単に作り出せるし、もっと作り出すように促しさえして、偽りの自己の問題を深刻化させている。ドーパミン中毒 アンナ・レンブケ • 195ページ 現実の経験が理想からかけ離れていると自分に距離を感じ、 現実を非現実のように感じるものである。 自分が作り上げた偽りの像と同じくらい偽物だと。精神科医はこの感覚を 「脱現実化」 とか 「脱人格化」と呼んでいる。それは恐ろしい感覚で、 自殺念慮につながってしまうことが多い。 結局、 現実感を持てなければ、人生を終わらせても大したことがないように思ってしまうのである。 偽りの自己に対する解毒剤は確かな自己である。 徹底的な正直さはそういう自己に辿り着くための手段だ。 それは私たちを現実に結びつけ、この世界に実在していると感じさせてくれる。それはまた自分がついてきた嘘を全て維持するのにかかる認知的負荷を減らし、 今この瞬間にもっと自発的に生きられるよう心のエネルギーを解放してくれる。ドーパミン中毒 アンナ・レンブケ・196ページ 周囲の人が約束を守ってくれる信頼できる人たちで、 その人たちが真実を言ってくれるなら、 私たちは世界とその中で暮らす未来について自信が持てる。 その人たちだけでなく、世界も秩序があり予測可能で安全な場所だと信頼できる。そう感じていると何かが不足していても、きっとそのうちうまくいくと信じることができる。 これが 「充分状態のマインドセット」である。 周りの人が嘘をついたり約束を守らなかったりすると私たちは未来に自信を持てなくなる。 世界は当てにすることができない危険な場所になる。 私たちは生存競争モードに入り、長期的な利益よりも短期的な利益を好むようになる。 実際には物が豊富にあってもだ。 これが 「欠乏状態のマインドセット」である。ドーパミン中毒 アンナ・レンブケ・198ページ 問題は、なぜ物質的な資源が豊富にある豊かな国に暮らしている人の多くが、 それにもかかわらず 「欠乏状態のマインドセット」で生活しているのかということだ。 これまで見てきたように、物質的に豊かでありすぎることは、少なすぎることと同じくらいよくないことなのだ。ドーパミン中毒 アンナ・レンブケ ・ 200ページ まず徹底的な正直さを、 家族の価値観の中核に据えることにした。 私は自分の振る舞いで徹底的正直さのモデルを示そうと、いつも成功するわけではないけれど、やってみることにした。 親は自分の間違いや不完全さを隠し、一番いい自分だけ見せようとすることで、何が正しいのか子供たちに教えることができると思ってしまうものだ。しかし、これは逆に子供たちに、愛されるためには完璧でなければならないと感じさせることになってしまう。ドーパミン中毒 アンナ・レンブケ・226ページ