SIADH
/ADH不適合分泌症候群
#内分泌疾患
【病態】
水利尿が起こるような低浸透圧血症の状態においてもバソプレシンが抑制されず,尿の最大希釈が生じない
【原因】
肺小細胞癌などの悪性腫瘍においてバソプレシンが異所性に合成分泌される場合
肺や中枢神経系の非特異的疾患によりバソプレシンの分泌抑制機能が障害される場合
他に薬剤性(クロフィブラート,ビンクリスチン,抗うつ薬、カルバマゼピンなど)抗がん薬
【問診】
全身倦怠感 低Na
食欲不振 低Na
歩行困難・尿失禁(→中枢神経系の機能障害をきたす病態
頭痛
水様便
体重減少 (→悪性腫瘍
発熱
既往歴、内服薬、アレルギー
喫煙歴(→肺癌
家族歴
(陰性所見)
食欲良好,嘔吐と下痢なし(→Naの摂取低下や消化管からの喪失は否定)
悪心はあるが嘔吐,腹痛,黒色便および血便はない(→消化器症状
37℃台の微熱があるが悪寒戦慄はない.(→感染症
【身体所見】
意識は清明だがややぐったりしている.(→低Na血症のせい?(→脳浮腫
ばち指を認める.(→肺疾患
(陰性所見)
身長166cm,体重69kg.体温37.5℃.脈拍104/分,整.血圧86/50mmHg.呼吸数20/分.SpO2 96%(room air).
皮膚は乾燥
色素沈着を認めない.(→ACTH過剰
眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない.(→貧血、肝機能
口腔内は乾燥
咽頭発赤はない.(→感染症
頸静脈の怒張を認めない.(→右心不全
甲状腺腫と頸部リンパ節を触知しない.心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦,軟で,圧痛はなく,肝・脾を触知しない.四肢末梢は冷たいがチアノーゼや浮腫を認めない.
脱水、浮腫なし
尿量の変化なし
【検査】低Na+血漿浸透圧<尿浸透圧→SIADH
Na 118mEq/L(→SIADH、副腎不全、甲状腺機能低下症
血清浸透圧240mOsm/L(基準275〜288),尿浸透圧572mOsm/L(基準50〜1,300)(→低浸透圧血症にもかかわらず尿浸透圧低下せず(→SIADH
尿中Na 84mEq/L.(→低Na血症にもかかわらずNa排泄低下なし.(→SIADH
抗利尿ホルモン〈バソプレシン〉1.2pg/mL(基準0.3~3.5)(→SIADH
血漿アルドステロン濃度は低値(不適切なADH分泌の持続→循環血漿量は増加→腎糸球体細動脈圧が上昇→RAA系が抑制
胸部X線写真(→肺門部の腫瘤性病変、透過性低下
胸腹部造影CT(→縦隔リンパ節の腫大、副腎腫瘍
(陰性所見)
ACTH・コルチゾール(→副腎不全の否定
TST・FT4(→甲状腺機能低下症の否定
尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-).血液所見:赤血球437万,Hb 12.3g/dL,Ht 34%,白血球5,400(好中球45%,好酸球21%,好塩基球1%,単球9%,リンパ球24%),血小板23万.血液生化学所見:総蛋白6.3g/dL,アルブミン3.7g/dL,総ビリルビン0.5mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 43U/L,ALT 78U/L,LD 169U/L(基準120〜245),ALP 200U/L(基準38〜113),γ-GT 96U/L(基準8〜50),CK 100U/L(基準30〜140),尿素窒素11mg/dL,尿酸3.7mg/dL,血糖92mg/dL,K 4.6mEq/L,Cl 89mEq/L,Ca 8.4mg/dL.
クレアチニン1.0mg/dL(→腎機能正常
【治療】
水分摂取制限
※低Na血症を高張食塩水投与により急速に補正することは浸透圧性脱髄症候群(ODS)を誘発する可能性があり禁忌である.don't ただし,意識障害を伴う高度の低ナトリウム血症では緊急治療として,高張食塩水が使用されることもある.
抗利尿ホルモン受容体(V2受容体)拮抗薬(モザバプタン)が2006年にわが国で承認されている.ただし,現在は異所性ADH産生腫瘍によるSIADHのみが適応
※化学療法中に低Na血症がみられ,さらに血清の浸透圧が尿中の浸透圧に比し低い場合にはまずSIADHを考慮しなければならない.その際にまずしなければならないことは水制限である.
※バソプレシンの「不適切な分泌」とは,いわゆる「正常域」を逸脱するような異常高値を指すのではなく,低浸透圧血症に見合った抑制がなされないことを指す.血清Na108mEq/Lならば血中バソプレシンは「測定感度未満」に抑制されなければならないが,測定可能な感度で検出された場合,それは「不適切な分泌」と判断される.