『失われた時を求めて』
『失われた時を求めて』(うしなわれたときをもとめて, À la recherche du temps perdu)は、マルセル・プルーストによる長編小説。プルーストが没時まで執筆校正した大作で、1913年から1927年までかけ全7篇が刊行された(第5篇以降は作者没後に刊行)。長さはフランス語の原文にして3,000ページ以上、日本語訳では400字詰め原稿用紙10,000枚にも及び、「最も長い小説」としてギネス世界記録で認定されている。ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』などと共に20世紀を代表する世界的な傑作とされ、後世の作家に多くの影響を与えている。 眠りと覚醒の間の曖昧な夢想状態の感覚、紅茶に浸った一片のプチット・マドレーヌの味覚から不意に蘇った幼少時代のあざやかな記憶、2つの散歩道の先の2家族との思い出から繰り広げられる挿話と社交界の人間模様、祖母の死、複雑な恋愛心理、芸術をめぐる思索など、難解で重層的なテーマが一人称で語られ、語り手自身の生きた19世紀末からベル・エポック時代のフランス社会の諸相も同時に活写されている作品である。 社交に明け暮れ、無駄事のように見えた何の変哲もない自分の生涯の時間を、自身の中の「無意志的記憶」に導かれるまま、その埋もれていた感覚や観念を文体に定着して芸術作品を創造し、小説の素材とすればよいことを、最後に語り手が自覚する作家的な方法論の発見で終るため、この『失われた時を求めて』自体がどのようにして可能になったかの創作動機を小説の形で語っている作品でもあり、文学の根拠を探求する旅といった様相が末尾で明らかになる構造となっている。