知的財産法 前期第7回
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今回の授業では、特許要件の内、産業上利用可能性、新規性について学びます。
教科書ですと『知っておきたい特許法』工業所有権法研究グループ(株式会社朝陽会)(22訂版)P31~P38
特許要件に関する条文は、
特許庁における指針:特許庁ではどのように法律を判断して運用するかを公開しています。解釈の指針にはなりますが、法律ではありません。判例の変更等によって運用も変わります。
演習
N角形切り溝餅の発明
株式会社越前屋で発売したライン餅は、空前のヒットになった。
その成功に味をしめた社長の鈴木は、さらなる新しい商品開発に取り組むように本田に指示した。
ライン餅を開発した川崎と葉山は転職してしまっていたので、頼れる者は少ない。そこで、今回は本田自ら開発しようと意気込んだものの、なかなかアイデアが出てこない。
どうしたものかと思案している中、気分転換にと会社近くの公園を散策することとした。
その公園の真ん中には、池があり、その岸辺にベンチが据え付けてある。ベンチに座って池を眺めていると、中から亀が出てきて、甲羅干しを始めた。亀の甲羅を見て、本田がひらめいた。「そうだ、餅の表面に甲羅のような切り溝模様を付けたらどうだろう」。
早速、会社に戻り、試してみることとした。餅の表面に、亀の甲の模様をつけるのは難しく四苦八苦していると、そこに、社長秘書で広報担当の松田が社長からの用件を伝えるために来た。松田は、元開発部の事務担当だったが、社長秘書に異動していた。
なんとか六角形の亀甲模様を付けた餅が出来上がったが、川崎と葉山が抜けた開発部は人手が足りない。本田は松田をみて、「ちょうどいいや、手伝ってくれ」と、試作した餅を渡し、「これを焼いてみてくれ」と依頼した。
松田は、「忙しいから家に持って帰って、試してみます」と、言ってその場を引き上げた。
松田が家で焼いてみると、切り溝部分が割れて結構焼き上がりが綺麗に膨らむ。面白いのでもっと焼いてみたいと思い、もっと作って試したいと思ったのだが、餅の上面に六角形を刻むのは難しい。「ええい、面倒だ、と言わんばかりに、縦横の格子状に切り溝を入れて焼いてみた。すると格子状の切り溝でも同様に焼き上がりが綺麗に膨らむ。家族に試食してもらうと、母親も絶賛してくれた。
翌日、松田が本田に報告すると、それはいい、「亀甲模様と格子模様の切り溝餅を特許出願しよう」ということになった。
特許請求の範囲は、
「請求項1 切り餅の上面に、交差する複数の線によりN角形の切り溝模様を刻んだ切り餅」
「請求項2 前記N角形の切り溝模様が、六角形である請求項1記載の切り餅」
「請求項3 前記N角形の切り溝模様が、四角形である請求項1記載の切り餅」
とし、本田と松田の共同発明とし、株式会社越前屋の名義で2021年1月12日に出願した。本当は正月前に出願したかったのだが、間に合わなかった。
ところで、松田の母親は、格子模様の切り餅が気に入ってしまって、松田が会社から持ってきた試作品を、正月前に近所の友人・知人達に配ってしまっていた。
以上の状況にあって、以下の質問に答えなさい。
問1:このN角形切り溝餅の発明について、松田はどのような権利を有しているだろうか。(前回の授業の復習)
問2:N角形切り溝餅について、株式会社越前屋がした特許出願は、特許されるであろうか。特許要件との関係を鑑みて検討しなさい。
演習1 株式会社越前屋が出願した発明は、登録可能か?
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産業上利用可能性はこちら
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特許出願
2019年1月10日に特許出願X
内容は特許請求の範囲にAという装置を記載。
特許明細書にAを作るための工作装置Bについて記載。
2020年1月20日に工具メーカーが工作装置Bについて出願Y。
この時点では、出願Xは未公開。故に、特許法29条1項各号には該当せず(新規性あり)。
しかし、出願Xは、2020年6月10日経過後に出願公開される。
ということは、Bは、2019年1月10日にすでに世の中に情報として提供されていると、同様。出願Yは新しい情報を世の中に提供するものではない=特許の価値がない。
特許法第29条の2の趣旨
先願の出願内容が公開される前の後願であれば、その発明は新規性を喪失していない(第29条第1項各号)。
しかし、先願の内容が公開された以上、それと同一内容の後願を公開してもなんら新しい技術を公開するものではない。
従って、新規な発明の公開の代償として発明を保護せんとする特許制度の趣旨から、このような後願に特許を付与する必要はない。
また、出願審査請求制度の導入に伴い、先願の請求範囲が確定する前に後願を処理する必要が生じている。
そこで、補正により請求範囲を増減できる最大限の範囲である出願当初の明細書等に記載された範囲全部に先願の地位を認めておけば、先願の処理を待つことなく後願の処理を行える。
さらに、この範囲に先願の地位を認めておけば、いわゆる防衛出願の件数を減らすことができ、審査の促進を図ることができる。
加えて、先願の詳細な説明にのみ記載した発明は先願者が公衆に解放したものと考えることができ、この発明について後願者に特許権を付与するのは公有財産の私権化を招き不合理である。
このような四つの理由から、法は第29条の2を設け、いわゆる先願範囲の拡大を図ったのである。
なお、国際出願にも本条を適用すべく新たに読み替え規定が設けられた。
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https://gyazo.com/7c96eab6e515b66b880cb5aa5618f302
第7回はここまで。
進歩性は重要なので次回の第8回に集中講義します。
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