プログラミング教育で育む資質能力の系統化とそれをもとにしたカリキュラムの開発
基本情報
区分:基金
研究種目:基盤研究(C)
課題番号:21K02922
研究課題名:プログラミング教育で育む資質能力の系統化とそれをもとにしたカリキュラムの開発
Title of Research Project: Systematization of competencies to be cultivated in programming education and development of a curriculum based on these
期間:2021年度〜2025年度
研究成果の概要
理科と算数の単元の中で資質能力を系統的に育むプログラミング教育カリキュラム,このカリキュラムに基づいたプログラミング教材,ワークシート,及び,研修教材を開発し,Webサイトで公開した.また,この成果を用いた授業実践を行い,児童の論理的思考を育む有効な手段となり得ることを示した.
加えて,児童のプログラミング的思考の習熟度を文部科学省の指針に沿った四つの要素ごとに測定するテスト問題を提案し,評価実験を通して,客観的に測定できる可能性を示した.
Outline of Research Achievements
A programming education curriculum was developed to systematically foster students’ competencies within units in science and mathematics. Programming learning materials, worksheets, and training materials based on this curriculum were also developed and published on a website. Classroom implementations using these materials suggested that the approach can effectively foster logical thinking skills in elementary school students.
Furthermore, assessment items were proposed to measure students’ proficiency in computational thinking as defined in the Japanese curriculum guidelines based on the four components specified by MEXT. Evaluation experiments suggested that the proposed assessment has the potential to objectively measure students’ proficiency in these components.
研究成果の学術的意義や社会的意義
本研究は,小学校のプログラミング教育において育成される資質・能力を教科横断的に整理し,その系統性を明らかにするとともに,それに基づくカリキュラムを構築した点に学術的意義がある.これにより,個別の教材や授業実践として論じられることが多かったプログラミング教育に対し,資質・能力の育成という観点から体系的に設計する枠組みを提示した.一方,授業教材や教員研修教材を開発し公開したことで,学校現場における計画的かつ継続的なプログラミング教育の実践を支援し,教育の質向上に貢献する点で社会的意義を有する.
研究分野(研究代表者の専門分野)
情報工学
キーワード
プログラミング教育,算数科,理科,カリキュラム,学習教材,研修教材,プログラミング的思考,論理的思考
研究開始当初の背景
情報通信技術の発展と社会への浸透に伴い,情報化やグローバル化が進み,予測が不可能な,加速度的に進展し続ける社会になりつつある.そのような中,内閣に設置されているIT総合戦略本部では,情報通信技術に関する高度人材を育てるのはもとより,あらゆる国民層に対して情報通信技術に係る能力を醸成することを国家戦略として打ち出した.
これを受けて,小学校では2020年度から全面実施され,中高においても順次実施される新しい学習指導要領では,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用する情報活用能力を,学習の基盤となる資質・能力として明示しその育成を掲げ,また科学的な理解に裏打ちされた能力の育成を重視することとして,その内容が大きく変わった.高校普通教科情報では,“社会と情報”と“情報の科学”の選択必修制から“情報の科学”の後継的な内容の“情報Ⅰ”が必修となり,中学校技術・家庭科技術分野では,これまでの計測・制御プログラミングに加え,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングが追加された.そして,小学校では“児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動”を教科横断型で計画的に実施することとした“プログラミング教育”が必須化された.
しかし,小学校におけるプログラミング教育は,プログラミング教育をテーマに取り上げた研究推進校を除いて,ほとんどの学校において準備不足のまま2020年度を迎え,十分な実施には程遠い状況となっている.この原因は様々あるが,多くの小学校教員がプログラミング教育に関する知識経験がないこと,各教科等の学びの中でプログラミング教育を実施することが求められているにも関わらず授業実施の基本である教科書には記載がほとんどないこと,自ら授業設計するための確かなる資料や教材が少ないことが大きな要因である.
教科等で育む資質能力や学ぶ内容は,発達段階への対応や単元間の繋がりが考慮された上で学習指導要領によって定められ,具体的な教材として教科書が作成されている.また,教科書を使ってどのような授業を展開していけば良いかの授業研究も数多く行われ,教員養成の段階から具体的な授業法を学ぶ機会もある.そのため,教科等教育について,教員は自信を持って授業を行うことができ,またそれによって思考力・判断力・表現力,そして想像する力といった,これからの時代でより重要になる力を育む余裕がでてくる.
プログラミング教育については,文科省からは手引きや実践事例,研修教材が発信され,教材会社からも実際の授業で用いることができる教材が発売されているが,これらはまだ点の状態にあり,それぞれが繋がった体系的なものとなっていない.
実際に授業をする上では,具体的にどの教科のどの単元でどのような内容の授業をすれば良いのか,そしてそれぞれの授業がどのように結びついて資質能力を育んでいるのか,6年間全体に渡る体系的なカリキュラムの存在が不可欠である.
関連する国内外の研究動向
国外の初等教育段階のプログラミング教育は,イギリスをはじめ各国で既に必修の授業として行われ,そこで育成されるべき力としてもComputational Thinkingについて等様々な研究が行われている(たとえば*1).しかし,日本の小学校におけるプログラミング教育は,教科等教育の中で行うという特徴から,国外の教育方法はそのまま適用することが難しい.
国内では,この数年で教科等教育に組み込んだ実践研究の報告が様々行われるようになったが,プログラミング教育の在り方や育む力に関する研究については,プログラミング教育における論理的思考やプログラミング的思考がどのようなものであるかを明確にする研究として,大場らのプログラミング力と論理力の関係に関する研究*2や,小嶋らによる藤川によるプログラミング的思考には論理的思考と創造的思考が含まれるなどの再定義の提言*3など,教科等におけるカリキュラムデザインに関する研究として,小島らによる総合的な学習におけるプログラミング教育*4や,長山による音楽(表現活動)におけるプログラミング教育*5,研究代表者による理科におけるプログラミング教育*6など,まだまだ数少ない状況にある.
*1 Shuchi Grover, Roy D. Pea : Computational Thinking: A Competency Whose Time Has Come, https://www.researchgate.net/publication/322104135_Computational_Thinking_A_Competency_Whose_Time_Has_Come
*2 大場みち子,伊藤恵,下郡啓夫:プログラミング力と論理的思考力との相関に関する分析,情報処理学会研究報告,vol.2015-DD-97, No.2, pp.1-4 (2015)
*3 藤川大祐:小学校プログラミング教育の鍵概念の検討 : 実践のための提言,千葉大学大学院人文公共学府研究プロジェクト報告書, No.357, 21-29 (2020)
*4 小島寛義,高井久美子,渡辺博芳:小学校におけるプログラミング教育で育てる資質能力表の提案,情報処理学会論文誌教育とコンピュータ, vol. 5, No. 2, pp.30-39 (2019)
*5 長山弘:小学校音楽科におけるプログラミング教育のあり方の検討 : 授業実践事例を手がかりに,初等教育カリキュラム研究, No.7, pp.55-67 (2019)
*6 加藤直樹,松田孝,上野朝大,濵田大地:小学校理科におけるワンボードマイコンを用いるプログラミング教育の提案,AI時代の教育学会論文誌(査読有), vol.1, pp.37-42 (2019)
研究の目的
本研究では,小学校におけるプログラミング教育の具体的なカリキュラムとカリキュラム開発のための知見を創出することで,その実施が確実に行われるようになることを目指す.
背景でも述べたとおり,現時点のプログラミング教育は,教科書に掲載された数少ない記載,教師が独自に探してきた教材,研究校が発信した指導案等をもとに実施されている.それら一つ一つはプログラミング教育の目的を達成するものであるが,系統化された実施にならないため,たとえばあるプログラミング活動を行う際,その活動に必要な資質能力をそれまでに育んでいないということが起こり,その活動を効果的に行うことができない,本質的な活動を行う前の準備活動に多くの時間が必要になるなどの問題が生じる.
そこで本研究では,各教科等各単元及び課程外で実施できるプログラミング活動について,その活動で用いる資質能力を小学生の発達段階と各単元の順序性を考慮しつつ整理し,プログラミング活動の再設計や追加を行いながら,資質能力を系統的に育む小学校におけるプログラミング教育カリキュラムを開発する.また,この研究過程を通して,たとえば教科等の単元構成が変わった時や,学校独自の教育課程に合わせたカリキュラムを再構成するときのための指針の確立を試みる.
研究代表者はこれまでの研究で,“コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力”を,小学生の発達段階で育成できることに考慮しつつ,情報科学・情報工学の視点から明確にし,教科教育の観点から,その力の育成を教科の学びに位置付けたプログラミング活動として具現化することを行ってきた.本研究ではその具現化したプログラミング活動をもとにカリキュラム開発を行っていく.これまでの研究では,各プログラミング活動を実施するために必要な資質能力が,想定した学年で習得・活用できるかどうかの検証が十分に行えておらず,この点について明らかにしている研究も非常に少ない.そこで本研究では,教育現場における実践を通して,プログラミング教育で育む資質能力の習得及び活用できる時期を探り,先のカリキュラム開発に反映する.
https://gyazo.com/c841f424dfe98457a406ef3e17ab3837
研究の方法
上記目的を達成するために下記の手順で実施した.
(a) これまでに開発した各プログラミング活動について再分析を行い,各活動に含まれる論理的思考力をはじめとしたプログラミング教育で育む資質能力の要素を洗い出す.
(b) 同各プログラミング活動の教育現場での授業実践を通して,各要素が習得・活用できる時期を洗い出す.
(c) 習得可能時期より前の活動に含まれている要素については,その要素を活動から省くもしくはその要素を発揮することなく活動できるように再設計を行う.また,習得可能時期より後にしか活動がない場合は,習得可能時期にその要素の習得を行う活動を組み入れられないかを検討し,必要に応じて新たな活動を開発する.
(d) 上記(a〜c)の成果持って,資質能力を系統的に育むプログラミング教育カリキュラムを開発する.
(e) 構築したカリキュラムをもとにして,授業で使えるワーク教材,児童が家庭でも自習できるワーク教材,及び,教員用の指導書を開発し,現場への普及を試みる.
(f) 開発した教材を用いた授業実践を通して,実際にどのような資質能力の育成に繋がったかを考察する.
(g) 上記研究に合わせて,文科省から出された文書におけるプログラミング的思考の定義に沿ったプログラミング的思考力習得度合いを測るためのテストの開発を行う.
(h) 加えて,上記の研究成果をもとにした,次期教科書改訂に対する情報提供を行う.
研究体制
本研究は上記の通り,プログラミング教育の実践を通した研究を行う.また,小学校各教科等の教育内容とプログラミング教育の関係の分析も重要となる.そこで,研究代表者の所属大学の附属学校及び近隣地域の小学校からの協力を受けて実施した.
研究成果
資質能力を系統的に育む プログラミング教育カリキュラムの開発
理科,算数(数),算数(図形)の単元の中で資質能力を系統的に育むプログラミング教育カリキュラムを開発し,Webサイトで公開した.なお,この成果は研究終了後も随時更新を行なっている.
https://scrapbox.io/IML-Lab/Programming
https://gyazo.com/345f9ac2023734173cc62a9e85455370 https://gyazo.com/d186da5f2b9d04e62666d634e0dc61f1
https://scrapbox.io/IML-Lab/理科でプログラミング教育
https://gyazo.com/d6d3262d27d411067ed147252c575b28
https://gyazo.com/afeb08361a896eb7613997ce43967b56
https://scrapbox.io/IML-Lab/数でプログラミング教育
https://gyazo.com/fe42f331d72f2e03f7b26f1df38245cb
https://gyazo.com/6c94e3e12397267c4176ad73962cd112
https://scrapbox.io/IML-Lab/図形でプログラミング教育
https://gyazo.com/c4a44139e25b539209965b1117e9e1ec
https://gyazo.com/48e915cda19301a315a0f3bbf9f5f0ca
(単元例)https://scrapbox.io/IML-Lab/明るさと温度
https://gyazo.com/22b8acb06fac6c728be7820b160a6c9e
https://gyazo.com/33f5f917c898a52867a87532f88076ab]
https://gyazo.com/516bba88bbd0793ee4321711c91aab2d
ワーク教材,研修教材の開発
構築したカリキュラムをもとにして,授業で使える教材,ワークシート,及び,教員用の研修教材を開発し,上記カリキュラム公開サイト内で公開した.なお,この成果は研究終了後も随時更新を行なっている.
(単元例)https://scrapbox.io/IML-Lab/明るさと温度
(教材例)https://makecode.microbit.org/S43087-05651-21147-47629
https://gyazo.com/9935d57ae38de5597ed6f70c22f8fa51
(ワークシート例)https://www.dropbox.com/scl/fi/lvk9vew6a0jcrlt0grna5/.pdf
https://gyazo.com/13c4b166ec9a38e31bb3e0a4b826afbf
(研修教材例)https://scrapbox.io/IML-Lab/micro:bitで温度計と照度計を作ってみよう
https://gyazo.com/538e77d1f5303c3484636cef6c55b3db
授業実践を通した資質能力育成の検証
小学校1年生を対象にしたプログラミング教育の導入に際し,児童の論理的思考がどのようなタイミングで芽生えるのかを明らかにし,その思考を効果的に促す手立てを探ることを目的として実施した授業実践を行った.授業の前後の評価テスト,担任教諭への聞き取りを通して児童の変容を観察した.結果として,授業後には問題への正答率が向上し,自由記述においても「順番の大切さ」や「うまくいかなかった理由を考える」といった論理的思考の芽生えが見られた.これらの結果から,視覚的かつ直感的に操作できるプログラミング教材は,児童の論理的思考を育む有効な手段となり得ることが示唆された.
岡部創介,谷川航,加藤直樹:micro:bit のLED 点灯プログラミングを用いた小学校1 年生の論理的思考の芽生えに関する研究,情報処理学会研究報告,Vol.2026-CE-184, No.11, pp.1-7 (2026.3)
Sosuke Okabe, Wataru Tanigawa, Naoki Kato: A Study on the Emergence of Logical Thinking in First Grade Elementary School Students Using micro:bit LED Lighting Programming, Vol.2026-CE-184, No.14, pp.1-8 (2026.3)
https://u-gakugei.repo.nii.ac.jp/records/2001499
小学生のプログラミング的思考を要素ごとに測定する方法の検討
児童のプログラミング的思考の習熟度を測定し,詳細に分析できるようにすることを目標に,プログラミング的思考を要素ごとに測定するテスト問題を提案し,作成したテスト問題の論理的妥当性と表面的妥当性を検証するために行った評価実験を行った.検証の結果,提案したテスト問題は文部科学省の指針に沿った 4 つの要素から児童のプログラミング的思考を客観的に測定できるテスト問題として妥当である可能性が示唆された.一方で,要素ごとに分けることで測定しにくくなる要素が生まれてしまうこと,テスト問題全体の分量や難易度の差,必要とする前提知識の影響などが改善点としてあげられた.
堀部瑞穂,加藤直樹:小学生のプログラミング的思考を要素ごとに測定する方法の検討,情報処理学会研究報告,Vol.2026-CE-184, No.14, pp.1-8 (2026.3)
https://u-gakugei.repo.nii.ac.jp/records/2001498